労働保険(雇用保険と労災保険)の加入基準

雇用保険の加入手続き

通常、従業員を採用したときは、雇用保険の加入手続きを行います。具体的には、雇用保険の資格取得届を作成して、ハローワークに提出して行います。

しかし、例えば、1週間しか勤務しない従業員は、退職しても雇用保険の失業給付を受けられませんので、このような一部の従業員については、加入義務が免除されています。

雇用保険の加入基準については、雇用保険法で定められています。

雇用保険の未加入の放置

中には、試用期間が終わってから雇用保険の加入手続きをしている会社があるようですが、加入基準を満たしている場合は、採用日(入社日)から加入させないといけません。

もし、加入義務があるにもかかわらず、未加入のまま放置していると、2年前にさかのぼって保険料が徴収されます。前年度までさかのぼる場合は、労働保険の年度更新の作業をやり直さないといけませんので、面倒なことになります。

また、退職(解雇)のタイミングによっては、会社が適正に加入手続きをしていれば雇用保険の失業給付を受けられたにもかかわらず、会社が加入手続きを怠ったため、加入期間が足りなくて受給できないというケースがあります。

雇用保険の加入義務は会社に課されていますので、会社は従業員から失業給付に相当する金額を支払うよう請求される恐れがあります。従業員本人が「雇用保険には加入したくない」と言っていたとしても、考慮されません。法律(雇用保険法)が優先されます。

違法なことをしていると、その最終責任は会社に行き着きます。雇用保険に加入しないのであれば、本人と話し合った上で、加入基準を満たさないよう労働時間や労働日数を減らすべきです。

雇用保険の加入基準

雇用保険については、雇用保険法により、加入基準が次のように定められています。

「1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用する見込みがある者」

例えば、1週間の所定労働時間が16時間のパートタイマーについては、(加入したくても)加入できません。このときに、時間外勤務や休日勤務を行って、それらを含めると1週間の(総)労働時間が20時間以上になる場合があると思います。

「1週間の所定労働時間」が基準になっていますので、原則的には、時間外勤務や休日勤務を行った時間は含みません。

しかし、例えば、1週間の所定労働時間を16時間としていれば、毎週毎週30時間の時間外勤務をさせたとしても、雇用保険に加入しなくても良いのか(脱法行為ではないか)という疑問が生じます。そのため、“実態”により判断されることになっています。

つまり、1週間の(総)労働時間が20時間以上になるケースが、“例外”と言える程度の頻度であれば問題はないのですが、日常的に繰り返されていると、加入義務があると判断されます。

その場合は加入義務を明確にするために、本人と話し合った上で、1週間の所定労働時間を20時間以上として、改めて雇用契約書を締結し直すようお勧めいたします。

また、もう1つの基準として、「31日以上雇用する見込みがある者」が定められています。最初は2週間だけ雇用する約束(見込み)で、最初から変わらなければ、その間は加入しなくても構いません(加入できません)。

そして、その後も雇用を継続することになり、31日以上雇用する見込みになったときは、その時点から加入義務が生じます。

31日目から加入義務が生じるのではなく、「このままだと31日目以降も雇用しているだろう」と見込まれた時点から加入義務が生じることがポイントです。

雇用保険の適用除外

雇用保険法により、次の者は適用が除外されています。前項の加入基準を満たしていても、雇用保険に加入できません。

「季節的に雇用される者」に該当するかどうかは、業種自体に季節性があるかどうか、地域性(積雪寒冷地かどうか等)、職種を考慮して判断されます。

以前は、「65歳に達した日以後に新たに雇用される者」についても適用が除外されていたのですが、雇用保険法の改訂により、平成29年1月1日以降は適用されることになりました。

なお、4月1日の時点で64歳以上の従業員については、その年度の雇用保険料が免除されます。この取り扱いは当分の間は変わりませんが、平成32年度以降は雇用保険料が徴収される予定です。

また、雇用保険は失業時の給付を第一の目的とし、従業員(労働者)を対象にした制度ですので、役員(取締役)は対象外です。役員報酬に対して、雇用保険料は掛かりません。

労災保険の加入基準

労災保険については、全ての従業員が対象になります。正社員、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託従業員、日雇い労働者、といった雇用形態は関係ありません。労働時間の長短も関係ありません。

従業員が勤務を開始した日から自動的に、労災保険に加入したものとみなされます。雇用保険のように、個人ごとに加入手続きをする(資格取得届を提出する)必要はありません。

ただし、毎年、労働保険の年度更新を行って、労働保険料(雇用保険料と労災保険料)を納付する必要があります。

なお、労災保険は労災事故が起きた場合の補償を第一の目的とし、従業員(労働者)を対象にした制度ですので、雇用保険と同様に役員(取締役)は対象外です。役員報酬に対して、労災保険料は掛かりません。

(2017/10作成)