社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入基準

社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入手続き

通常、従業員を採用したときは、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入手続きを行います。具体的には、社会保険の資格取得届を作成して、年金事務所(又は事務センター)に提出して行います。

社会保険については、全ての従業員に加入義務があるということではなく、加入基準は健康保険法と厚生年金保険法で定められています。

社会保険の未加入の放置

中には、試用期間が終わってから社会保険の加入手続きをしている会社があるようですが、加入基準を満たしている場合は、採用日(入社日)から加入させないといけません。

もし、加入義務があるにもかかわらず、未加入のまま放置していると、2年前にさかのぼって社会保険料が徴収されます。2年分の社会保険料となると最長で24ヶ月分になりますので、1人につき100万円(会社と従業員が50万円ずつ負担)を超えるケースも珍しくありません。

そして、社会保険の未加入が発覚したときに、従業員が既に退職していると、賃金から社会保険料を控除することができません。そのため、会社から本人に従業員負担分の社会保険料を振り込むよう請求するのですが、応じてもらえないケースがよくあります。

応じてもらえなかったとしても、社会保険料の納付義務は会社に課されていますので、会社が従業員負担分も合わせた社会保険料の全額を支払わされます。違法なことをしていると、その最終責任は会社に行き着きます。

従業員本人が、「社会保険料は高いし、夫の扶養に入っているので、社会保険には加入したくない」と言ったとしても、法律に従って加入させる必要があります。加入しないのであれば、本人と話し合った上で、加入基準を満たさないよう労働時間や労働日数を減らすべきです。

社会保険の加入基準

社会保険については、健康保険法と厚生年金保険法により、加入基準が次のように定められています。

「1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が、正社員の1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数の4分の3以上である者」

健康保険と厚生年金保険の加入手続き(資格取得届の提出)はセットで行いますので、同じ加入基準が用いられます。

以前は、「1日の所定労働時間」が基準の1つにあったのですが、平成28年10月以降は、「1週間の所定労働時間」に改められています。

例えば、正社員の1週間の所定労働時間が40時間とすると、30時間以上かどうかが基準になります。また、正社員の1ヶ月間の所定労働日数が21日とすると、15.75日以上かどうかが基準になります。この両方の基準を満たしている場合は、加入義務があります。

「1週間の所定労働時間」と「1ヶ月の所定労働日数」を比較することになっていますので、原則的には、時間外勤務をした時間や休日勤務をした日数は含みません。

しかし、例えば、1週間の所定労働時間を16時間としていれば、毎週毎週30時間の時間外勤務をさせたとしても、社会保険に加入しなくても良いのか(脱法行為ではないか)という疑問が生じます。そのため、“実態”により判断されることになっています。

時間外勤務や休日勤務が日常的になっていて、(時間外勤務や休日勤務を含めた)勤務の実態が正社員の4分の3以上になっている場合は、加入義務があると判断されます。この場合、正社員の基準は「1週間の所定労働時間」と「1ヶ月の所定労働日数」が用いられます。

したがって、社会保険に加入しないのであれば、時間外勤務や休日勤務を含めて、正社員の4分の3以上にならないよう日頃から注意する必要があります。

特に、年金を受給している従業員については、加入義務があると判断されると、さかのぼって社会保険料が徴収される上に、これまで受給してきた年金(在職老齢年金)の返還を求められます。

時間外勤務や休日勤務を行うときは、その都度、申請を義務付けて管理してください。

大企業の社会保険の加入基準

原則的には前項の加入基準が適用されるのですが、従業員数が500人を超える大企業については、社会保険の適用範囲が拡大されています。

1週間の所定労働時間が30時間未満であっても、次の4つの要件を全て満たす者については、加入義務があります。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上である
  2. 1年以上の雇用が見込まれる
  3. 賃金の月額が88,000円以上である
  4. 学生でない

社会保険の適用除外

健康保険法と厚生年金保険法により、次の者は適用が除外されています。前項の加入基準を満たしていても、社会保険(健康保険と厚生年金保険)には加入できません。

2ヶ月以内の期間を定めて使用される者

2ヶ月以内の期間を定めて雇用する場合は、社会保険に加入しなくても構いません。これを見て、「採用日から2ヶ月間は社会保険に加入しなくても良い」と勘違いをされる方がいらっしゃいます。

有期雇用契約の場合(2ヶ月以内の期間を定めて雇用する場合)であって、無期雇用契約の場合(期間を定めないで雇用する場合)は、入社日から加入する必要があります。

2ヶ月以内の期間を定めて雇用することが条件ですので、契約期間がいつからいつまでなのか、具体的に雇用契約書に明記しないといけません。また、従業員を募集するときも、2ヶ月以内の期間を定めて雇用することを明示する必要があります。無期雇用で募集をすると、トラブルの原因になります。

そして、2ヶ月以内の期間を定めた雇用契約が満了して、雇用契約を更新したときは、その時点から社会保険の加入義務が生じます。適用除外となるのは初回の雇用契約だけで、2ヶ月以内の期間を定めて雇用契約を更新したとしても、更新した時点から加入義務が生じます。

また、「試用期間を2ヶ月とすれば、その間は社会保険に加入しなくても良いのでは?」と考えられるかもしれませんが、試用期間は長期雇用(期間を定めない雇用)を前提とする制度ですので、期間を定めた雇用とは相容れないものです。適用除外には当てはまりません。

季節的業務に使用される者

季節的業務というのは、例えば、スキー場や海水浴場での業務、除雪作業、農作物の収穫作業などが考えられます。

年間を通して行える業務で、例えば、「キャンペーン販売を行うので夏の間だけ雇用したい」というようなケースは、季節が限定される必然性がないため該当しません。

(2017/10作成)