特定受給資格者と特定理由離職者
特定受給資格者
雇用保険に加入していた社員が退職をして、失業した場合は、雇用保険から失業給付を受けることができます。
失業に至る経緯は様々ですが、例えば、会社が倒産したり、会社に解雇されたりしたときは、通常は突然のことで、再就職などの準備をする時間的な余裕がありません。
このような方を雇用保険では「特定受給資格者」と言って、失業給付の支給に関して、自己都合で退職した場合より優遇されます。
特定受給資格者の範囲
特定受給資格者と認められるかどうかは、その離職理由によって決まります。特定受給資格者と認められる離職理由の例は、次のとおりです。
- 倒産、事業所が廃止になった
- 事業所が移転し、通勤が困難になった
- 解雇(懲戒解雇を除く)された
- 労働契約締結時の労働条件と事実が著しく相違していた
- 賃金の支払が2ヶ月以上遅れた
- 賃金が85%未満に低下した
- 月45時間を超える時間外労働を3ヶ月以上させられた
- 有期労働契約が3年以上更新されて雇い止めされた
- セクハラ、パワハラを受けた
- 退職勧奨をされて応じた
- 休業が3ヶ月以上続いた
- 法令違反があった
所定給付日数
失業給付は、@離職理由、A雇用保険の加入期間、B年齢によって、支給を受けられる日数(所定給付日数)が決まります。自己都合退職者、特定受給資格者の所定給付日数は下表のとおりです。
自己都合退職
雇用保険の加入期間 | 1年未満 | 1年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|
全年齢 | − | 90日 | 120日 | 150日 |
特定受給資格者
雇用保険の加入期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | − |
30歳以上35歳未満 | 90日 | 90日 | 180日 | 210日 | 240日 |
35歳以上45歳未満 | 90日 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 |
45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
給付制限期間
自己都合退職の場合は、ハローワークに離職票を提出してから7日間の待機期間があって、更に3ヶ月の給付制限期間があって、これらの期間は失業給付を受けられません。
一方、特定受給資格者の場合は、最初の7日間の待機期間は同じですが、次の3ヶ月の給付制限期間は付きません。したがって、待機期間の翌日から、失業給付が支給されます。
被保険者期間
自己都合退職の場合は、過去2年の間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが、失業給付を受けられる条件になっています。
一方、特定受給資格者の場合は、過去1年の間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上あれば、失業給付が支給されます。
特定理由離職者
「自己都合退職」であっても、個人的なやむを得ない事情を抱えていることがあります。そのような保護する必要がある方を雇用保険では「特定理由離職者」と言って、「特定受給資格者」と同様の取扱いを受けられます。ただし、所定給付日数については一部だけです。
特定理由離職者の範囲
「特定理由離職者」は、次の2つに区分されています。
1.有期労働契約の雇い止め
有期の労働契約を締結するときに、「契約を更新する場合がある」というように、更新される可能性はあるけれども、確かではない場合が該当します。
したがって、「契約は更新しない」と明確になっていた場合は該当しません。また、本人が更新を希望しなかった場合も該当しません。
2.正当な理由のある自己都合退職
- 体力の不足、心身の障害、疾病、視力・聴力・触覚等が減退した
- 妊娠、出産、育児等により離職し、受給期間の延長措置を受けた
- 父母や親族の死亡、疾病、負傷、扶養など、家庭の事情が急変した
- 配偶者や親族と別居生活を続けることが困難になった
- 結婚、育児、事業所の移転、転勤、配偶者の転勤などのため、通勤が困難になった
- 希望退職者の募集に応じた
「特定受給資格者」と同じ所定給付日数となるのは、1.に該当し、平成29年3月31日までに退職した場合に限られます。
2.に該当する場合は、通常の自己都合退職の場合と同じ所定給付日数となります。なお、被保険者期間が1年未満の場合の所定給付日数は90日です。
ハローワークへの申出
「特定理由離職者」に該当するかどうかの判断は、ハローワークが行います。確認のため、必要書類の提出を求められますので、事前にハローワークに確認をすると良いでしょう。
また、本人からハローワークに何も伝えないと、「自己都合退職」として処理されますので、「特定理由離職者」に該当しそうなときは、ハローワークに具体的な退職理由を申し出る必要があります。
離職票の虚偽記載
特定受給資格者等になると優遇されるため、実際は自己都合退職であるにもかかわらず、退職者が「解雇扱いにして欲しい」と言ってくる場合があります。
しかし、このような行為は失業給付の不正受給となり、会社は詐欺罪の共犯者になってしまいます。また、解雇となると、将来、一部の助成金が受給できなくなります。更に、解雇予告の手続が必要になりますし、後になって「不当解雇だ」と訴えられると面倒なことになります。
虚偽の記載は会社のリスクが大き過ぎますので、離職票は必ず、事実に基づいて記載して下さい。
国民健康保険料の軽減措置
国民健康保険の保険料は、前年の所得に基づいて計算されます。したがって、退職して収入が大幅に減少したにもかかわらず、それなりの大きな負担を求められます。
この負担を軽減するために、65歳未満で、特定受給資格者や特定理由離職者になった場合は、国民健康保険の保険料が軽減され、前年の給与所得を「100分の30」とみなして保険料の算定が行われます。
軽減される期間は、離職日の翌日から翌年度末までです。軽減を受ける場合は、市区町村に届出が必要です。
(2015/9作成)