脳・心臓疾患の労災認定

脳・心臓疾患の労災認定

働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、業務による過重な負荷を原因とする脳・心臓疾患の労災認定の基準が、約20年ぶりに改正されました。

業務と発症との関連性について、基本的な考え方は同じで、実質的な変更はありません。基準を明確に具体的に示して、客観的な評価を適切に行えるようにすることを目的として改正されたものです。令和3年9月から適用されています。

改正のポイント

従来は、(1週40時間を超える)時間外労働の時間が月45時間を超えると、業務と発症との関連性が生じて、発症前1ヶ月間で100時間、又は、発症前2〜6ヶ月間の平均で月80時間を超えると、業務と発症との関連性が強いと判断されました。この基準は、改正後も維持されています。

そして、このような長時間労働の水準には及ばないけれども、拘束時間が長かったり、出張が多かったり、「労働時間以外の負荷要因」がある場合は、それも考慮することになっていました。改正によって、「労働時間以外の負荷要因」が見直されて、より明確になりました。

また、「短期間の過重業務」や「異常な出来事」があった場合も従来から記載されていましたが、業務と発症との関連性が強いと判断できるケースが例示されて、より明確になりました。

労働時間以外の負荷要因

過重業務を原因とする脳・心臓疾患の労災認定においては、時間外労働の時間が発症前1ヶ月間で100時間、又は、発症前2〜6ヶ月間の平均で月80時間という基準が重視され過ぎて、これに満たない場合は「労働時間以外の負荷要因」があったとしても、業務災害と認められるケースは稀でした。

改正によって、長時間労働の水準に及ばなくても、これに近くて、一定の「労働時間以外の負荷要因」がある場合は、総合的に考慮して、業務と発症との関連性を評価することが明確に示されました。

労働時間以外の負荷要因の具体例

労働時間以外の負荷要因が見直されて、次のように項目が整理されました。

※ が追加された項目です。

@勤務時間の不規則性

睡眠時間を確保できるかどうかが重要で、勤務間インターバル(終業から次の勤務の始業まで)が11時間未満のケースが検討の対象になります。

A事業場外で移動を伴う業務

長距離輸送の運転手や航空機の客室乗務員など、通常の業務を事業場外で行う場合があり、移動を伴う業務として、出張(通常の勤務地を離れて特定の業務を行う場合)と区別して追加されました。

B心理的負荷を伴う業務 ※

【日常的に心理的負荷を伴う業務】

【心理的負荷を伴う具体的な出来事】

従来は、「精神的緊張を伴う業務」として定められていた内容が拡充、整理されました。具体例が示されていますが、これに限定されるものではありません。

C身体的負荷を伴う業務 ※

D作業環境

それぞれの項目ごとに強弱がありますが、時間外労働の時間と合わせて、総合的に評価されます。つまり、時間外労働の時間が短くても、負荷要因が強ければ(反対に、負荷要因が弱くても、時間外労働の時間が長ければ)、業務と発症との関連性が認められます。

ただし、時間外労働の時間が月45時間以内の場合は、疲労は蓄積しないと考えられていることから、時間外労働が過重業務の評価の対象になることはありません。

短期間の過重業務

長時間労働を原因とする脳・心臓疾患については、長期間にわたって疲労が蓄積して発症すると考えられていることから、最短でも1ヶ月間の時間外労働の時間に基づいて判断することが原則になっています。しかし、それより短い期間(おおむね1週間)に、

  1. 特に過度の長時間労働(や労働時間以外の負荷要因)があった場合
  2. 深夜の時間帯に及ぶ過度の長時間労働があった場合

も、業務と発症との関連性が強いと判断されることが明示されました。

異常な出来事

次のような異常な出来事に遭遇した場合も、業務と発症との関連性が強いと判断されることが明示されました。長時間労働をしていなくても、業務災害と認められるケースがあります。

このような場合は医学的に、急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが認められています。通常は24時間以内に症状が出現すると考えられています。

(2023/11作成)