勤務間インターバル制度

長時間労働の現状

過労自殺や過労死に関する報道が断続的に繰り返され、減少する兆候が見えません。

長時間労働が常態化すると、疲労回復に欠かせない睡眠時間が減少し、健康障害(過労死やメンタルヘルスの不調など)を引き起こすことが知られています。

脳・心臓疾患(過労死など)が発症したときに、時間外労働が1ヶ月に80時間を超えていると、業務との関連性が強いと判断されます。

そして、労働力調査(2015年)によりますと、1週間の就業時間が60時間以上の従業者の割合は、8.3%(12人に1人)に達しています。

1週間の就業時間が60時間以上ということは、1ヶ月の時間外労働に換算すると80時間を超えます。つまり、12人に1人の割合で、過労死と認定される、いつ過労死が発生してもおかしくない過酷な環境で就業していることになります。

法定労働時間と36協定

労働基準法により、1週間については40時間、1日については8時間を超えて労働させてはならないことが定められています。

これが原則ですが、例外的に、従業員の過半数代表者と36協定を締結して、労働基準監督署に届け出た場合は、1週40時間、1日8時間を超えて労働させることが可能になります。

この36協定については、「時間外労働の限度に関する基準」が定められていて、時間外労働の時間は、1ヶ月については45時間、1年については360時間を超えてはいけないことになっています。

しかし、36協定に特別条項を付け加えれば、この限度基準を超えることが許されます。そして、特別条項に関しては、時間外労働の上限が定められていません。

要するに、法律上、時間外労働は無制限に命じられる仕組みになっています。違法ではありませんので、従業員は長時間労働を拒否することが難しいです。

また、法定労働時間を超えて労働させたときは、25%の割増率で時間外労働手当を支払うことが義務付けられているため、賃金志向が強い従業員は、積極的に時間外労働をしようとします。

このような現状が、長時間労働が改善されない原因と考えられています。

長時間労働を抑制する規制

現在の労働基準法には、直接、長時間労働を抑制する仕組みがありません。長時間労働を抑制するための政策としては、従来は割増賃金をどうするかが議論の中心で、割増率を引き上げたりしてきましたが、なかなか効果が表れていません。

長時間労働を抑制するためには、労働時間の上限を設定するか、勤務の間に一定の休息時間を確保する方法が有効と考えられています。

前者は、1日の労働時間の上限を設定したり、36協定で締結できる時間外労働の上限を法制化したりする方法が考えられます。後者は、「勤務間インターバル」と呼ばれる制度です。

勤務間インターバル制度

勤務間インターバル制度とは、当日の勤務を終了してから次の勤務を開始するまでの間に、一定の休息時間(インターバル)を確保する制度で、既にEU加盟国で法制化されています。

EU労働時間指令に基づいて、EU加盟国では企業に対して、24時間につき連続11時間以上の休息時間を確保することを義務付けています。

例えば、所定労働時間が午前9時から午後6時までの会社で、ある日に従業員が午後11時まで残業したとすると、11時間の休息時間(インターバル)をはさみますので、翌日の(始業時刻の午前9時を過ぎても)午前10時まではその者に就業させてはいけないことになります。

最初に一定の休息時間を確保して、他の時間を労働時間に充てるという考えになります。休息時間が11時間以上とすると、結果的に1日の拘束時間は13時間未満になります。

勤務間インターバル制度導入の意義

労働時間の上限を設定するのではなく、勤務間に一定の休息時間を確保することによって、次のような効果が期待できます。

EU労働時間指令

EU労働時間指令は、労働者の健康と安全を保護するために定められたもので、休息と休暇が大部分を占めています。

これらを社内ルールに取り入れて改善をすれば、長時間労働を原因とする健康障害のリスクを確実に低減できます。参考のため、他の内容も紹介しておきます。

  1. 24時間につき連続11時間以上の休息時間を確保する
  2. 1日の労働時間が6時間を超えるときは休憩時間を付与する
  3. 7日毎に連続24時間以上の休息時間を(1.の11時間とは別に)確保する
  4. 時間外労働を含めて、1週間の労働時間は(4ヶ月を平均して)48時間を超えてはならない
  5. 4週間以上の年次有給休暇を付与する
  6. 夜間労働者の労働時間は24時間につき8時間を超えてはならない
  7. 夜間労働者には健康診断を行い、健康上の問題がある場合は配置転換を行う

勤務間インターバル助成金

勤務間インターバル制度を導入した企業に対して、助成金が支給されることになりました。時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)で、詳細はこちらから確認してください

勤務間インターバル制度を法律で義務付ければ、長時間労働はかなり改善すると期待しているのですが、厚生労働省としては、当分の間は努力義務として、企業に対して自主的な導入を促すという考えのようです。

勤務間インターバル制度の導入

従業員の健康確保とワーク・ライフ・バランスを実現するために、情報産業労働組合が旗振り役になって、勤務間インターバル制度の導入に向けた取り組みを進めています。KDDI、三菱重工業、NEC等が勤務間インターバル制度を導入しています。

勤務インターバル制度を導入する場合は、まずは、休息時間(インターバル)を何時間にするか検討しないといけません。従業員と話し合ったり、現状を把握した上で設定するべきですが、最低でも8時間は確保しないと、制度を設ける意味がないように思います。

また、勤務間インターバルにより、次の勤務が始業時刻より遅くなった場合に、始業時刻から勤務したものとみなすかどうか(賃金を控除するかどうか)についても検討する必要があります。

もし、管理が面倒ということであれば、例えば、午後9時から翌日の午前6時までの勤務を禁止するといった方法もあります。そうすれば、少なくとも9時間の休息時間を確保できることになります。

勤務間インターバル制度は、一部の従業員にとっては余計なお世話で、業務に支障が生じるのではないかと心配されるかもしれません。しかし、従業員の健康を害してまで優先しなければならない業務はないと思います。

(2018/12作成)