変更解約告知とは
変更解約告知とは
企業の業績が悪化して、合理化が必要になったときの対応策は色々ありますが、その中に「変更解約告知」と呼ばれる方法があります。
一旦、現在の雇用契約を解約して、新しい労働条件で雇用契約を締結し直すことを従業員に求めるもので、これに応じない従業員については、解雇することになります。
従業員に対して、賃金の減額を受け入れるか、解雇されるか、どちらかの選択を迫るというのが典型的なケースです。
また、賃金の減額又は解雇の二択に加えて、従業員が賃金の減額の有効性について争うことを留保したまま、暫定的に減額した賃金で勤務を継続するケースもあります(「留保付き承諾」と呼ばれます)。
二者択一の場合と比較すると、従業員にとっては解雇を回避できるというメリットが、会社にとっては解雇無効と判断された場合のダメージを軽減できるというメリットがあります。
整理解雇については、判例法理から4要件が明らかになっていて、労働条件の引下げについては、就業規則の不利益変更の要件が明らかになっています。しかし、変更解約告知については、法律上の規定も最高裁の判例もありませんので、有効と認められるための要件が定まっていません。参考のため、関連する裁判例を紹介します。
スカンジナビア航空事件
事件の経緯 (1995年4月13日/東京地裁)
会社の経営状態が悪化して、年々赤字額が増大していました。会社は希望退職者を募集したりして、経営の合理化を進めたのですが、効果が不十分で、更にコスト削減を進める必要がありました。
会再建策として、会社は、早期退職の募集(増額した退職金を支給)と再雇用(労働条件の引下げ)の提案を行いました。多数の従業員は会社の提案を受け入れたのですが、一部の従業員は労働条件の維持を希望して、会社の提案を拒否しました。
会社は提案を拒否した従業員に対して、再度、新しい労働条件で再雇用することを約束して、解雇予告の意思表示(変更解約告知)をしました。そして、再雇用を申し込まなかった従業員を、会社は解雇しました。これに対して従業員が、解雇の無効を主張して、会社を提訴しました。
判決の概要
会社が合理化を実施するために、従業員の労働条件を変更する場合は、各人から同意を得る必要がある。同意しなかった従業員については、会社が一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。次の条件を全て満たしている場合は、会社は新しい雇用契約の締結の申込みに応じない従業員を解雇することができる。
- 従業員の労働条件を変更することが、事業の運営にとって必要不可欠である。
- その必要性が、労働条件の変更によって従業員が受ける不利益を上回っている。
- 新しい雇用契約の申込みに応じない者を解雇しても、やむを得ないと認められる。
- 解雇を回避するための努力を十分に尽くしている。
本件においては、いずれも認められることから、会社が行った変更解約告知は有効で、従業員に対する解雇は有効である。
大阪労働衛生センター第一病院事件
事件の経緯 (1998年8月31日/大阪地裁)
病院の経営状態が悪化して、数年間赤字を計上していましたが、新しい院長による改善策の実施によって、経営状態が改善して、再建策が軌道に乗りつつありました。
そのような中で、病院から週3日勤務の医局員に対して、常勤従業員と比べて優遇を受けていることを理由にして、週4日勤務の常勤従業員になるか、パートタイマーに変更するか、どちらかの選択を求めました。しかし、医局員はその申し入れを拒否したため、病院は解雇しました。
判決の概要
変更解約告知の実質は、労働条件を変更するために行う解雇であるが、労働条件の変更は就業規則の変更によって行うべきである。
これとは別に、変更解約告知を認めれば、企業は労働条件を変更するための新しい手段を得ることになる。一方の従業員は、厳しい選択を迫られて、再雇用の申し入れを伴うからという理由で解雇の要件が緩やかに判断されると、不利な立場に置かれることになる。
そう考えると、変更解約告知という類型を設けるべきではない。解雇が企業の経済的な必要性を理由とするのであれば、実質的には整理解雇であるから、整理解雇と同様の厳格な要件が必要である。
本件においては、解雇しなければならない経営上の必要性は認められない。したがって、解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効である。
日本ヒルトンホテル事件
事件の経緯(2002年11月26日/東京高裁)
ホテルで配膳人として日々個別の雇用契約を締結していた従業員に対して、ホテルから労働条件の引下げを提示して、応じない場合は雇用契約を更新しないと伝えました。
多数の従業員は労働条件の引下げに同意しましたが、一部の従業員は労働条件の引下げ(不利益変更)について争うことを留保しつつ、ホテルが提示した労働条件で勤務すると回答しました。しかし、ホテルはそれを拒否して雇止めをしました。
判決の概要
従業員とホテルは日々個別の雇用契約を締結している関係であるから、労働条件の変更に合理的な理由が認められれば、ホテルの雇用契約の更新の申込みは有効である。これに対する従業員の留保付き承諾の意思表示は、立法上の手当がない現状においては許されないもので、ホテルの申込みを拒絶したものと考えられる。
本件の労働条件の変更は、大幅な赤字を抱えて危機的な状況にあって、コスト削減の方法として行ったもので、労働条件の変更の程度は、他のホテルでも実施されている程度のもので、会社の危機的な状況を乗り切るために、やむを得ないと認められる。
本件の雇止めには、社会通念上相当と認められる合理的な理由があると認められる。したがって、雇止めは有効である。
まとめ
大阪労働衛生センター第一病院事件では、裁判所は変更解約告知を認めないで、実態は(整理)解雇であるとみなして、解雇は無効と判断しました。この事件は、スカンジナビア航空事件で示された4つの要件に照らし合わせても、無効になったと思います。
また、日本ヒルトンホテル事件では、変更解約告知に対して、従業員が留保付き承諾の意思表示をしましたが、会社に応じる義務はないと判断しました。ただし、会社が応じることを禁止するものではありません。
いずれにしても、解雇は最終手段と考えられていますので、変更解約告知や整理解雇の方が、就業規則の不利益変更より求められる要件が厳しくなります。人員を削減する必要性がない場合に解雇をすると、解雇は無効と判断されます。就業規則の不利益変更で対応できる場合は、解雇はするべきではありません。
(2025/1作成)