不妊治療のサポート
不妊治療の種類
近年は晩婚化と出産年齢の高齢化が進み、不妊治療を受ける夫婦が増加しています。一口に「不妊治療」と言っても様々な種類があり、その入口となる方法としては、
- 排卵日を診断して性交のタイミングを合わせるタイミング法
- 内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵を促す排卵誘発法
等があります。これらを行っても妊娠しなかった場合は、次のような治療に進みます。
人工授精
採取した精液を注入器で子宮に注入して、妊娠を図る方法です。一般不妊治療と言います。
体外受精
卵子と精子を採り出して、体外で受精させてから子宮内に戻す方法です。一般不妊治療では妊娠が難しい場合に行われる方法で、生殖補助医療と言います。女性の身体的な負担が大きいです。
顕微授精
体外受精の一種で、卵子に精子を注射針で注入して、人工的に受精させてから子宮内に戻す方法です。
男性に対する治療
手術用の顕微鏡を用いて、精巣内から精子を採取する方法です。
不妊治療の増加
2015年の調査結果によると、不妊の検査や治療を受けたことがある(又は受けている)夫婦は18.2%で、夫婦全体の5.5組に1組の割合になります。
また、2017年のデータを見ると、出生児数は946,065人で、このうち56,617人が生殖補助医療(体外受精や顕微授精)により誕生しています。これは全体の6.0%で、16.7人に1人の割合です。
通院日数
不妊治療をするために、通院に要する日数は、月経周期ごとに次のとおりです。ただし、これらの日数は目安で、医師の判断や検査結果等によって変わります。
一般不妊治療(人工授精)
- 女性・・・1〜2時間の診療が2〜6日
- 男性・・・0〜半日(手術を伴う場合は1日)
生殖補助医療(体外受精)
- 女性・・・1〜3時間の診療が4〜10日 + 半日〜1日の診療が1〜2日
- 男性・・・0〜半日(手術を伴う場合は1日)
体外受精の流れ
体外受精や顕微授精を行う場合は、次のような手順で進められます。なお、通院が不要な治療(点鼻薬や内服薬)は省略しています。
- 注射・・・8〜10日(通院しないで、自己注射を選択できる場合もあります)
- 検査・・・4〜5日(1回につき約1時間)
- 採卵・・・1日(麻酔をしますので、数時間は安静にする必要があります)
- 胚移植・・・1日(受精させた受精卵(胚)を子宮内に移植します。1回につき約1時間)
- 注射・・・2〜3日(1回につき約1時間)
- 妊娠判定
このように、女性は頻繁に通院することが求められます。検査や注射等の診療自体は1時間以内で終わっても、それまでに2時間以上の待ち時間が掛かる医療機関もあります。
不妊治療と仕事の両立
検査結果や排卵周期に合わせて、その都度、医師から次の通院日が指定されます。サポートがない職場では、不妊治療と仕事を両立することが難しく、仕事を辞めたり、雇用形態を変えたりするケースがあります。仕事を選んで、不妊治療を諦めるケースもあります。
退職者が増えることは、企業にとって大きな損失です。新規採用のための費用や人件費、教育コスト等も掛かります。不妊治療をする従業員をサポートして、働きやすい職場環境を整えることは、人材の確保、モチベーションの向上、採用力の強化など、様々なメリットがあります。
両立支援制度
不妊治療と仕事の両立を支援するための制度としては、次のようなものがあります。
半日単位の年次有給休暇
不妊治療を始めると頻繁に通院する必要がありますので、年次有給休暇を利用すると、直ぐに使い切ってしまいます。年次有給休暇は1日単位の取得が原則ですが、通院は半日で足りるケースが多いです。
年次有給休暇を半日単位で取得できるようにすると、2倍の回数利用できるようになります。また、労使協定を締結すれば、1年につき5日分は、時間単位で年次有給休暇を取得できるようになります。
フレックスタイム制
決まった時間に決まった場所に出勤するよう義務付けられると、不妊治療の阻害要因になります。フレックスタイム制を導入して、出退勤の時刻を自由に調整できるようにすれば、両立しやすくなります。
在宅勤務
在宅勤務やテレワークを導入すれば、フレックスタイム制と同様に、柔軟な働き方ができるようになります。
特別休暇
特別休暇や慶弔休暇の制度を設けている企業がありますが、その事由の1つに不妊治療を追加することも考えられます。日数は月1日か2日で、半日単位でも取得可能とすれば使い勝手が良いと思います。
休職
不妊治療に専念して取り組みたいという従業員に対して、1年間の休職を認めることも考えられます。休職期間中は原則的には無給ですが、本人負担分の社会保険料を会社が補助することもあります。
両立支援制度の周知
不妊治療については、どの程度の負担があるのか知らない人が大半です。理解がないと不満を生みやすいので、両立支援制度を設けることを従業員に説明して、「会社は不妊治療と仕事の両立を支援する」というメッセージを伝えることが大事です。
不妊治療をしていることを周りにオープンにすることで、手助けしてもらえることがありますが、職場で受け入れられるか分からなければ、オープンにしにくいです。また、「不妊治療をしていることを知られたくない」「気遣いされたくない」と考える従業員もいますので、プライバシーには配慮する必要があります。
(2022/5 作成)