安全衛生教育とは
安全衛生教育の重要性
労働災害を分析すると、
- 物的要因(機械設備の故障や作業環境の欠陥等=不安全な状態)
- 人的要因(間違った動作や危険状態の放置等=不安全な行動)
の2つがあり、これらの要因に対処して、なくすことができれば、多くの労働災害の発生を予防できます。
人的要因として、無知や能力不足から労働災害が生じるケースがあります。1つの行動によって事故が生じることを想定できれば、そのような行動をすることはありません。従業員に不安全な行動をさせないために、安全衛生教育が重要です。
労働安全衛生法では、労働災害を防止するための措置として、次の4項目が定められています。
- 危険防止の措置(安全装置の具備など)
- 健康管理の措置(定期健康診断など)
- 安全衛生管理体制の整備(安全衛生推進者の選任など)
- 安全衛生教育の実施
安全衛生教育の実施は、製造業や建設業に限定されることではありません。サービス業など全ての業種が対象で、かつ、パートタイマーやアルバイトなど全ての労働者に対して行う必要があります。
雇入れ時・作業内容変更時の教育
労働災害の約3割は、経験年数が1年以下の従業員が発生させています。労働安全衛生法(第59条第1項及び第2項)によって、従業員を雇い入れたとき、又は、従業員の作業内容を変更したときは、従事する業務に関する安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
教育する内容として、次の事項が労働安全衛生規則で列挙されています。
- 機械や原材料等の危険性、有害性及びこれらの取扱い方法
- 安全装置、有害物抑制装置、保護具の性能及びこれらの取扱い方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- 業務に関連して発生する恐れのある疾病の原因及び予防
- 整理、整頓、清潔の保持
- 事故が発生したときの応急措置及び退避
- その他、業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
ただし、サービス業、飲食業、介護事業等については、1.から4.までの事項は省略できます。また、これらの事項に関して十分な知識と技能を有している者については、教育を省略できます。
この規定に違反した場合は、50万円以下の罰金が科されることになっています。
危険有害業務に関する特別教育
労働安全衛生法(第59条第3項)によって、危険有害業務に就かせるときは、その業務に関する特別の安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
危険有害業務については、労働安全衛生規則によって、第1号の「研削砥石を取り替える業務」から第41号の「作業床がない2m以上の高所でフルハーネス型の墜落制止用器具を用いて行う業務」まで、具体的に定められています。
ただし、以前に特別教育を受講して、十分な知識と技能を有している者については、特別教育を省略できます。この規定に違反した場合は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになっています。
また、特別教育を行ったときは、受講者や科目等の記録を作成して、3年間保存することが義務付けられています。
派遣社員については、危険有害業務に従事するとき及び作業内容を変更したときは派遣先企業に、雇い入れたとき及び派遣先(作業内容)を変更したときは派遣元企業(調整した上で派遣先企業に委託することも可能)に実施義務があります。
職長教育
労働安全衛生法(第60条)によって、建設業、製造業、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業に該当する企業は、新しく職務に就くことになった職長(現場で作業する従業員を直接指導又は監督する者)に対して、次の事項について、安全衛生教育を実施することが義務付けられています。
また、労働安全衛生規則によって、項目ごとに一定時間以上実施することが定められています。
- 作業方法の決定及び従業員の配置(2時間)
- 指導や監督の方法(2.5時間)
- 危険性や有害性の調査及びその結果に基づいて講じる措置(4時間)
- 異常が発生した場合の措置(1.5時間)
- その他、職長として行うべき労働災害の防止活動(2時間)
安全衛生教育カリキュラム
労働安全衛生法(第60条の2)によって、安全衛生の水準を向上するために、危険有害業務に従事している者に対して、その業務に関する安全衛生教育を実施するよう努めることとされています。
具体的には指針(「危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針」)によって、危険有害業務(ボイラー、クレーン、ガス溶接、フォークリフト、有機溶剤、玉掛などを扱う業務)の種類ごとに、安全衛生教育のカリキュラム(科目、範囲、時間)が定められています。
また、一定の危険有害業務については、登録教習機関で技能講習を修了した者又は資格を有する者でなければ、その業務に従事させることができません。
能力向上教育カリキュラム
労働安全衛生法(第19条の2)によって、安全衛生の水準を向上するために、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者、その他安全衛生業務に従事する者に対して、従事する業務に関する教育や講習を受ける機会を与えるよう努めることとされています。
具体的には指針(「労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育に関する指針」)によって、その業務に初めて従事するときに行う「初任時教育」、一定期間ごとに行う「定期教育」、機械設備等に大幅な変更があったときに行う「随時教育」に分類されていて、対象者や作業の種類ごとに、能力向上教育のカリキュラム(科目、範囲、時間)が定められています。
健康教育
労働安全衛生法(第69条)によって、会社は従業員に対して、健康教育、健康相談、その他健康の保持増進を図るための措置を、継続的かつ計画的に講じるよう努めることとされています。従業員も会社が講じる措置を利用して、健康の保持増進に努めることとされています。
具体的には指針(「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」)によって、次の流れで進めていく方法が例示されています。
- 健康保持増進 方針の表明
- 推進体制の確立
- 課題の把握
- 健康保持増進 目標の設定
- 健康保持増進 措置の決定
- 健康保持増進 計画の作成
- 健康保持増進 計画の実施
- 実施結果の評価
(2024/11作成)