総報酬制の導入

総報酬制の導入

社会保険(厚生年金と健康保険)の保険料については、毎月の給料がベースになっていました。

これが平成15年から、ボーナスも含めた年収をベースにして計算する「総報酬制」が導入されました。

「総報酬制」の導入によって、一番気になる保険料は、どのようになるでしょうか。

「総報酬制」の仕組みを簡単にお伝えします。

社会保険料率の変更

厚生年金保険

現在の厚生年金保険の保険料率は、毎月の給料を支払う際は、標準報酬月額の17.35%で、労使が折半して負担しています。

また、ボーナスを支払う際は、ボーナスの1%で、同様に労使が折半して負担しています。

これらの保険料率が、「総報酬制」の導入によって、13.58%に引き下げられます。

健康保険

また、現在の健康保険(政管健保)の保険料率は、毎月の給料を支払う際は、標準報酬月額の8.5%で、労使が折半して負担しています。

また、ボーナスを支払う際は、ボーナスの0.8%で、本人負担が0.3%、会社負担が0.5%となっています。

これらの保険料率が、「総報酬制」の導入によって、8.2%に引き下げられます。まとめると、次のようになります。

給料ボーナス
改定前改定後改定前改定後
厚生年金17.35%13.58%1.0%13.58%
健康保険8.50%8.20%0.8%8.20%

総報酬制導入前後の社会保険料

総報酬制の導入によって、保険者(政府)にとっては増収にも減収にもならないように、保険料率が調整されています。

厚生年金保険

厚生年金保険に加入する会社のボーナスの平均額は、年3.6ヶ月分です。 ボーナスを年3.6ヶ月で計算し直すと、保険料率は17.35%から13.58%になります。

したがって、年間のボーナスが、3.6ヶ月を超える場合は保険料負担が重くなり、3.6ヶ月を下回る場合は保険料負担が軽くなります。

健康保険

健康保険(政管健保)に加入する会社のボーナスの平均額は、年1.9ヶ月分です。大企業が独自に設立している健保組合が除かれるため、厚生年金保険と比べると低くなっています。

ボーナスを年1.9ヶ月で計算し直すと、新しい保険料率は本来なら、7.5%となるところですが、政管健保は財源不足のため、0.7%引き上げられて、保険料率は8.2%になりました。

したがって、健康保険については保険料率の変更がわずかなため(8.5%→8.2%)、ボーナス分がほぼ全部負担増になります。しかも、医療費の本人負担が3割に改定されますので、家庭にとって医療費関係の負担は大幅アップになります。

導入前後の社会保険料

厚生年金保険と健康保険の保険料を合計して、導入前後の保険料を比較すると、ボーナスが給料の2.42ヶ月の場合に同じになります。

つまり、年間のボーナスが、給料の2.42ヶ月を越える場合は年間の保険料負担が重くなり、給料の2.42ヶ月を下回る場合は年間の保険料負担が軽くなります。

総報酬制の導入の背景

ボーナスの比率による不公平感を解消

従来の仕組みでは、毎月の給料にかかる保険料率と比べて、ボーナスにかかる保険料率が低いため、年収が同じでもボーナスの割合が高い人ほど年間の保険料負担が軽くなるといった不公平が生じていました。

このような不公平感を解消することが、総報酬制を導入する最大の目的です。

ボーナスを年金額に反映

従来の厚生年金保険の仕組みでは、ボーナスの1%を特別保険料として納付していましたが、この負担については、年金額には反映されていませんでした。負担している側から見ると全くの払い損です。

総報酬制が導入されることによって、ボーナス部分も年金額に反映されることになりました。

総報酬制導入後の年金額の計算

老齢厚生年金の年金額は、次の計算式によって算出されます。実際には、これに年齢や物価による調整が行われます。

「加入期間の給料の平均額×給付乗率×加入期間の月数」

ボーナス分の保険料も年金額に反映されることになりましたので、総報酬制導入後の年金額の計算に使う給付乗率は、「1,000分の7.125」から「1,000分の5.481」に引き下げられます。

総報酬制導入後のボーナスは、月額に換算して給料の平均額に加算されます。

この結果、保険料の負担が高くなった人の年金額は高く、保険料の負担が低くなった人の年金額は低くなりますので、一概に保険料が低くなったと喜んではいられません。

そして、総報酬制導入後の年金額の計算については、

  1. 総報酬制導入前の加入期間は、従来どおりの給付乗率で計算して、
  2. 総報酬制導入後の加入期間は、新しい給付乗率で計算して、

1.2.をそれぞれ合計することになります。これまで負担してきた分は、従来どおりの方法で計算されますので、これまでの分については損得の心配はいりません。

(2002年10月作成)