出向したときの労働保険料と社会保険料|出向元・出向先の負担ルールを解説

出向と保険料の基本的な考え方

従業員が出向した場合、労働保険と社会保険の保険料は、出向元か出向先かどちらの会社が負担するのでしょうか。

どちらが負担するかは、出向元と出向先のどちらが賃金を支払っているかによって異なります。また、労災保険、雇用保険、社会保険(健康保険・厚生年金保険)ごとに取扱いも異なります。

出向とは

まず、出向とは、出向元の会社に在籍したまま、出向先の会社で勤務することを言います。出向元の会社と雇用契約を維持したまま、出向先の会社とも雇用契約が成立すると考えられます。

二重に雇用契約が成立することになり、賃金の支払い方法としては次の3通りがあります。

  1. 出向先の会社が賃金を支払う(出向元は全く支払わない)
  2. 出向元の会社が賃金を支払う(出向先は全く支払わない)
  3. 出向先と出向元の両方の会社が別々に賃金を支払う

どの方法で賃金を支払うのかによって、それぞれの保険料の負担の方法が異なります。

なお、これは賃金の支払いをどちらが担当しているか(直接支払っているか)ということで、どちらが負担しているかは関係ありません。例えば、出向元が10万円を負担して、この10万円を一旦出向先に支払った上で、出向先でも20万円を負担して、出向先から合計した30万円を支払う場合は、1.に当たります。

パターン1:出向先が賃金を全額支払う場合

出向先の会社が賃金を支払う場合は、一番簡単です。

労災保険、雇用保険、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の保険料は全て、出向先の会社に納付義務があります。出向先の会社が支払っている賃金を基準にして、出向先の会社がそれぞれの保険料を負担することになります。

この場合、雇用保険と社会保険(健康保険と厚生年金保険)は出向先で加入することになりますので、出向元で資格喪失の手続きを行って、出向先で資格取得の手続きを行う必要があります。

パターン2:出向元が賃金を全額支払う場合

出向元の会社が賃金を支払う場合は、労災保険、雇用保険、社会保険(健康保険と厚生年金保険)のそれぞれで取り扱いが違ってきます。

労災保険

労災保険については、安全配慮義務と密接な関係があります。出向従業員は出向先の会社の指揮命令下で業務を行いますので、安全配慮義務は出向先の会社にあります。

そのため、労災保険の保険料は、出向先の会社に納付義務があります。出向元の会社が賃金を支払っているとしても、出向先の会社が支払っているとみなして、出向先の会社が労災保険の保険料を負担する必要があります。

雇用保険

雇用保険については、賃金を支払っている出向元の会社に保険料の納付義務があります。出向元の会社が支払っている賃金を基準にして、出向元の会社が雇用保険料を負担することになります。

社会保険(健康保険、厚生年金保険)

社会保険には、健康保険と厚生年金保険があって、従業員の年齢によっては介護保険が適用されますが、社会保険は全て同じように取り扱われます。

そして、社会保険については、雇用保険と同じで、賃金を支払っている出向元の会社に保険料の納付義務があります。出向元の会社が支払っている賃金を基準にして、出向元の会社が社会保険料を負担することになります。

パターン3:出向先・出向元の両方から賃金を支払う場合

出向をするときは、出向先の賃金の支給基準に基づいて、出向先が賃金を支払って、出向元がそれまでに支払っていた賃金との差額を支払う(補填する)場合があります。これ以外にも、両方の会社から別々に賃金を支払っているケースがあります。

以降の解説では、例示した方が分かりやすいので、出向先の会社から20万円、出向元の会社から10万円の賃金を別々に支払っているとします。

労災保険

労災保険については、安全配慮義務と密接な関係があります。出向従業員は出向先の会社の指揮命令下で業務を行いますので、安全配慮義務は出向先の会社にあります。

そのため、労災保険の保険料は、出向先の会社に納付義務があります。出向元の会社が支払っている賃金についても、出向先の会社が支払っているとみなします。両方の会社の賃金を合計した30万円を基準にして、出向先の会社が労災保険の保険料を負担する必要があります。

雇用保険

雇用保険は、原則として、1つの会社でしか加入できません。そのため、賃金額の高い方の会社でのみ加入することになります。例で言うと、出向先の会社の方が高額ですので、出向先の会社でのみ加入して、出向先の会社に雇用保険料の納付義務があります。

この場合、出向先の会社が支払っている20万円を基準にして、出向先の会社が雇用保険料を負担することになります。出向元の会社が支払っている10万円は考慮されません。その結果、失業給付についても、20万円を基準にして算出されます。

しかし、この出向従業員は、30万円の仕事をして、30万円の生活をしていると推測されますので、失業給付も30万円を基準にして算出されるべきではないでしょうか。

出向従業員が不利益を受けることがないように、(出向元が負担する賃金相当額を出向先に支払って)賃金を出向先の会社に集約して、出向先から合計した30万円を支払う方法が望ましいです。実務上はこのような処理が行われることが多いです。出向元に集約して支払う方法でも構いません。

また、出向先の会社が支払う賃金の方が高額になる場合は、出向先で雇用保険に加入することになりますので、出向元で資格喪失の手続きを行って、出向先で資格取得の手続きを行う必要があります。

社会保険(健康保険、厚生年金保険)

社会保険については、まずは、賃金額の高い方(出向先の20万円)の会社で加入します。

賃金額の低い方(出向元の10万円)の会社については、出向元でも労務管理を行っていて、常用的使用関係があると判断される場合は、「二以上事業所勤務」という制度が適用されます。

「二以上事業所勤務」が適用されると、出向元の会社についても二以上事業所勤務として届け出ることになり、この場合の社会保険料は合計した30万円を基準にして算出されます。そして、出向先は20万円/30万円、出向元は10万円/30万円に按分して、双方で社会保険料を負担することになります。

一方、賃金額の低い方(出向元の10万円)の会社で労務管理を行っていない場合は、常用的使用関係がないと判断され、賃金額の高い方(出向先の20万円)の会社でのみ加入することになります。社会保険料は出向先の20万円を基準にして算出した金額になります。

常用的使用関係があるかどうかの判断は、年金事務所で確認してください。もしくは、雇用保険の項目で説明したように、出向先か出向元のどちらか一方の会社に集約して賃金を支払うことにすれば分かりやすいので、できればそうしてください。

パターンごとの比較表

パターンごとの取扱いを整理すると、次のようになります。

賃金を支払う会社労災保険雇用保険社会保険(健康保険・厚生年金保険)
出向先のみ出向先出向先出向先
出向元のみ出向先出向元出向元
出向元・出向先の両方出向先(両社の賃金合計が対象)賃金額が高い方の会社二以上事業所勤務に該当する場合は両社で負担

出向では、賃金の支払方法によって、保険料の納付義務の対象者や加入先が変わります。特に、出向元と出向先の両方から賃金を支払うケースでは、雇用保険や社会保険の取扱いが複雑になりますので、注意が必要です。

転籍とは

出向と似た制度で転籍という制度があります。

転籍とは、従業員の籍を異動するもので、元の会社との雇用契約を解消して、別の会社と雇用契約を締結することを言います。簡単に言うと、元の会社を退職して別の会社に入社するのと同じで、転職と変わりません。

この場合は、転籍(入社)した先の会社が賃金を支払いますので、出向のように複雑なことにはなりません。

(2017/10作成)
(2026/3更新)


社会保険労務士 木下貴雄

執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。メールを用いた関連サービスは20年以上の実績があり、全国の中小零細企業を対象に、これまで900社以上の就業規則の作成・変更に携わってきました。