職業安定法の改正(平成29年4月1日)
募集・採用時のトラブル
割増賃金を定額で支払っている会社がありますが、従業員を募集する際に明示した賃金額に定額の割増賃金(固定残業代)を含んでいることを隠して誤認させたり、募集時に明示した労働条件と異なる内容で労働契約を締結したり、募集・採用時のトラブルが増えています。
職業紹介の機能強化や求人情報の適正化を図るために、職業安定法が改正されました。改正された内容について紹介いたします。
求人の申込みの不受理
職業安定法により、原則的には、ハローワークや職業紹介事業者は、全ての求人を受理しなければならないことになっていて、例外的に、法令に違反する求人は受理しないことができると定められています。
「職業紹介事業者」とは、許可を受けて又は届出をして、職業紹介を行う事業者のことを言います。
「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受けて、求人者と求職者の雇用関係の成立をあっせんすることを言います。
今回の改正により、次の求人者による申込みについても、ハローワーク等が受理しないことができるケースに追加されました。
- 求人者が、労働基準法、最低賃金法、育児介護休業法等の労働関係法令に違反し、是正勧告を受けたり、公表されたりしている場合
- 求人者が、暴力団員等の場合
例えば、労働基準監督署から是正勧告を受けたときは、是正が完了するまで、ハローワーク等に求人の申込みをしても拒否されることがあります。
具体的な施行日は未定で、平成32年4月1日までに施行されることになっています。
職業紹介事業者に関する情報提供
求職者と求人者が適切な職業紹介事業者を選択できるように、職業紹介事業者に対して、次の事項の情報提供を義務付けることになりました。
- 職業紹介により就職した者の数
- 就職した者の内、6ヶ月以内に離職した者の数
- 手数料に関する事項
以上については、平成30年1月1日から施行されます。
また、ハローワークでも、求職者や求人者の希望に応じて、職業紹介事業者に関する情報を提供することになっています。
こちらは、平成29年4月1日から施行されています。
募集情報等提供事業者に係る規定の整備
募集情報等提供事業を行う者について、募集情報の適正化等のために講ずべき措置が指針で定められることになりました。
「募集情報等提供事業を行う者」とは、求人情報サイトや求人情報誌等が該当します。指針では、次の内容が定められる予定です。
- 業務運営に関する事項
苦情処理を行う体制(相談窓口等)を整備すること、個人情報を適正に管理すること、等 - 募集情報の適正化に関する事項
求人者の了解を得ることなく募集情報を改変しないこと、募集情報が実際の労働条件と相違している恐れがあると認識した場合は求人者に確認をして相違が判明した場合は求人者に変更を依頼すること、等
また、必要に応じて、募集情報等提供事業を行う者に対して、指導や助言、報告徴収を行うことができるよう規定が整備されます。
この事項は、平成30年1月1日から施行されています。
労働条件の明示
現状では、募集をする際は、職業安定法により、求職者に労働条件(業務内容、契約期間、労働時間、賃金、社会保険の適用など)を明示することが義務付けられています。
また、労働契約を締結する際は、労働基準法により、本人に労働条件を明示することが義務付けられています。
今回の改正により、募集時に明示した労働条件と労働契約締結時に明示する予定の労働条件が異なる場合は、労働契約を締結する前に、変更部分を書面で見比べられるようにして、求職者に明示することが義務付けられます。
次のようなケースが例示されています。
- 募集時に基本給を30万円と明示していて、28万円に変更するような場合
- 募集時に基本給を25万円〜30万円の範囲内と明示していて、28万円に決定するような場合
- 募集時に基本給を25万円+営業手当を3万円と明示していて、営業手当を不支給とするような場合
- 募集時に基本給を25万円と明示していて、新たに営業手当を3万円支給するような場合
例として賃金を挙げていますが、労働時間など他の労働条件についても、変更、特定、削除、追加する場合は明示する必要があります。
なお、募集時に明示した労働条件は安易に変更、削除、追加してはならないこと、それらを行う理由について求職者から質問されたときは適切に説明すること、も定められています。
また、募集時に明示する労働条件として、次の内容を明確にすることが義務付けられます。曖昧な部分を排除して、トラブルが起きやすい事項を事前に明確にしようとするものです。
- 割増賃金を定額(固定残業代)で支払う場合は、定額の割増賃金を除いた基本給等の金額、定額の割増賃金の金額とそれに相当する労働時間数、相当する労働時間数を超えたときは割増賃金を追加で支払う旨を明示すること
- 期間の定めのある労働契約を締結する場合は、試用期間の性質を有するものであっても、試用期間満了後の労働条件ではなく、試用期間中の労働条件を明示すること
- 裁量労働制による「みなし労働時間」を適用する場合は、その旨を明示すること
1.について、ハローワークで求人の申込みをする際に、割増賃金を定額(固定残業代)で支払う場合は、上で示した3つの内容を記載することが求められていて、既に対策が進んでいます。
3.について、入社して初めて裁量労働制が適用されることを知り、いくら残業をしても割増賃金が支払われないというトラブルを想定したものです。
更に、募集時に明示が義務付けられる労働条件として、次の内容が追加されます。同様に、隠されがちな内容を事前に明らかにしようとするものです。
- 試用期間の有無、試用期間があるときはその期間、試用期間中と試用期間満了後の労働条件が異なるときはそれぞれの労働条件
- 従業員を雇用しようとする者の氏名又は名称
- 派遣従業員として雇用しようとする場合はその旨
また、学校卒業見込者については特に配慮が必要なことから、原則として内定時に、書面により労働条件を明示するべきであることが定められました。場合によっては、就職活動をやり直すことが可能になります。
この事項は、平成30年1月1日から施行されています。
求人者に対する指導・罰則
求人者が、職業安定法に基づく指針、指導及び助言、申告、報告徴収及び検査の対象になり、労働条件の明示義務等に違反したときは、是正勧告が行われて、是正勧告に従わない場合は公表されます。
また、虚偽の求人の申込みを行った者は、罰則(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の対象になります。この事項は、平成29年4月1日から施行されています。
(2019/9作成)