採用差別の禁止
採用の自由
従業員を募集して、応募者の中から誰を採用するかは、企業が自由に決めることです。
労働契約も“契約”です。契約(労働契約)を締結するかどうかは、当事者(企業と個人)の自由です。企業に対して、特定の人物を採用するよう義務付けられることはありません。
ただし、完全に自由ということではなく、法律によって、募集・採用をするときに、差別的な取扱いとして禁止されるケースがいくつか定められています。
雇用対策法
雇用対策法の第10条(募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保)において、次のように定められています。
「事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」
従業員を募集・採用する際に、例えば、「40歳未満の者に限る」など、年齢制限をすることが禁止されています。
ただし、定年年齢を上限としたり、労働基準法等で年齢制限が設けられていたり、特定の年齢層が相当程度少なかったり、雇用対策法の施行規則の第1条の3で定められているケースに該当する場合は、例外的に年齢制限が可能になります。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法の第5条(性別を理由とする差別の禁止)において、次のように定められています。
「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」
従業員を募集・採用する際に、男女で異なる基準を設定したり、性別を理由とする差別的な取扱いが禁止されています。
また、男女雇用機会均等法の第7条(性別以外の事由を要件とする措置)では、次のように定められています。
「事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であって労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。」
間接差別を禁止する規定で、従業員を募集・採用する際に、例えば、身長、体重、体力の基準を設定したりすることが禁止されています。もし、これが認められるとすると、結果的(間接的)に男女差別を認めることになってしまいますので、合理的な理由がない場合は間接差別として禁止されます。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法の第34条(障害者に対する差別の禁止)において、次のように定められています。
「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。」
従業員を募集・採用する際に、障害者を排除したり、障害者でない人を優先して採用したり、障害者であることを理由とする差別的な取扱いが禁止されています。
違法な採用差別
企業が、以上のような法律に違反する採用差別を行った場合はどうなるのでしょうか。
そのような行為は不法行為に該当しますので、企業には損害賠償責任が生じます。しかし、誰を採用するかは、経営上の問題ですので、あくまでも企業の意思で決めることです。違法行為であったとしても、差別した人を採用することまでは求められません。
思想・信条を理由とする採用差別
労働基準法の第3条において、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。」と定められています。
信条や社会的身分等を理由として差別的な取扱いを禁止する規定ですが、これは採用した後の“労働者”に適用される規定で、募集(採用する前)の段階では“労働者”ではないため適用されないと考えられています。
また、日本国憲法の第14条で法の下の平等が保障されたり、第19条で思想・良心の自由が保障されたりしていますが、これらの規定は国や地方公共団体に対して適用されるもので、民間企業に対しては適用されません。
つまり、従業員を募集・採用する際に、特定の思想や信条を持っていることを理由にして、企業が採用を拒否したとしても、これを禁止する法律がありませんので、直ちに違法にはならないと考えられています。
しかし、法律で禁止されていないとしても、思想や信条を理由にして差別的な取扱いをしていると、不法行為と判断される可能性がありますので、思想や信条を採用基準に設定するべきではありません。
公正な採用選考
そのため、厚生労働省ではガイドブックやリーフレットを作成して、企業に対して公正な採用選考を実施するよう啓発活動を行っています。この中で、次の14項目については、就職差別に繋がる恐れがあるとして、企業に配慮するよう求めています。
本人に責任のない事項
- 本籍・出生地に関すること
- 家族に関すること
- 住宅状況に関すること
- 生活環境・家庭環境に関すること
本来自由であるべき事項(思想信条に関わること)
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合・学生運動等の社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書に関すること
採用選考の方法
- 身元調査等の実施
- 全国高等学校統一応募用紙・JIS規格の履歴書に基づかない事項を含んだ応募書類の使用
- 合理的・客観的に必要性がない健康診断の実施
企業としてはこれらの事項を採用の判断基準にしていないとしても、実際に面接の場で質問をしていると、応募者にとってはそれが理由で採用差別を受けたと受け取られかねません。
トラブルを防止するために、募集をする職務に求められる適性や能力の基準を予め明らかにして、応募者の適性や能力を把握するための質問だけを行ってください。
(2017/1作成)