マニュアルは必要か?

マニュアル

この頃は「マニュアル」と言うと、「個性を潰す」とか、「マニュアルで社員を管理する時代ではない」というような、否定的な言葉が返ってきそうです。

本当にそうでしょうか。

マニュアルに否定的な経営者は、「一人一人の社員に個性を発揮してもらいたい」と思っているのでしょう。

賛成しますが、この考えとマニュアルは相容れないものではありません。

マニュアルの種類

マニュアルにも色々な種類があります。

製造業で用いられる作業標準(作業手順を示したマニュアル)については、否定する方はいないと思います。これを定めないで現場に任せていると、各自が勝手に必要な作業を省略したり、本来とは違う手順で作ったりして、製品の品質は安定しません。

また、通勤手当の支給や変更など、社内業務を円滑に進めるための手続きマニュアルも、決められた様式を使わなかったり、決められた手順に違反したりすると、社内の処理が混乱してしまいます。

このような作業標準や手続きマニュアルは、新入社員教育の手間が省けるといった利点もあります。

次に、接客マニュアルや営業マニュアルといった対顧客関係のマニュアルは必要なのか、ということについて進めていきたいと思います。

マニュアルは最低基準をクリアするためのもの

全てのマニュアルに共通していることですが、マニュアルに従っていれば、最低基準の成果が得られます。これが、マニュアルを作成する目的です。

接客マニュアルは、お客さんの衛生要因を満たすだけで、動機付け要因を満たすものではありません。動機付け要因を満たせないから、マニュアルは必要ないと言われるかもしれません。しかし、お客さんに不満を持たれることは避けないといけません。

例えば、販売店で接客マニュアルがないと、Aさん、Bさん、Cさんのサービスの水準がバラバラになって、それぞれの個人商店のようになってしまいます。そして、接客対応の良くないCさんによって、会社全体のイメージが固定化される危険があります。

マニュアルの弊害

マニュアルを徹底して、それ以外の行動を禁止していると、マニュアル頼りになって、社員はものを考えないようになってしまいます。

また、マニュアルに頼り過ぎると、マニュアルに書かれていない事態が起きたときに、適切な対応ができません。特に接客については、あらゆるケースを想定することは不可能ですので、マニュアルだけでは不十分です。

価値観を共有する

そこで大事になってくるのが、価値観を共有することです。マニュアルに書いてある1つ1つの具体的な言動を教えることは大事ですが、その根底にある抽象的な価値観や考え方を教えることの方がもっと重要です。

価値観を共有できていれば、マニュアルに書かれていない事態が起きても、その価値観に基づいて、どのように行動すれば良いのか自分で判断できます。

そのためには、マニュアルに書いてあることを、「どうしてそうするのか?」という理由も同時に教えないといけません。

ディズニーランドのマニュアルには、「挨拶は『こんにちは!』です」と書かれています。そして、ディズニーランドでは、コミュニケーションを大切にしたいから、「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」と教えているそうです。確かに、「いらっしゃいませ」は言いっ放しで、コミュニケーションが途切れます。

そのような教育をすることで、コミュニケーションを大切にしたいという気持ちを込めて(価値観に基づいて)挨拶することになります。受け取る側の印象も違ってくるでしょう。

他のケースについても、「どうしてそうするのか?」という理由をトレーナーと一緒に考えながら、ディズニーランドの考え方や価値観を学んでいくそうです。上から答えを与えるより、本人に考えさせることで、マニュアルに書かれていない事態が起きても、自分で判断して行動できるようになります。

場合によっては、マニュアルと価値観が矛盾する場面があるかもしれません。そのときでも、価値観を優先した行動は責めるべきではありません。マニュアルはあくまでもガイドラインで、それよりも優先しなければならないことがあるはずです。

マニュアル通りの対応では、顧客満足は得られません。マニュアルを超えた所に顧客は満足します。

ただし、「守・破・離」という言葉があるように、最初はマニュアルどおりに忠実に実行して(守)、それを理解した上で自分なりの創意工夫を加えていく(破)という段階を経て行われるべきでしょう。

マニュアルは簡単に改訂できるように

マニュアルを作るときは、最初から完璧なものを目指す必要はありません。必要に応じて、その都度、追加や改訂が簡単にできるようにしておくことが重要です。そうすることで、徐々に使えるマニュアルに進化していきます。

マニュアルというのは、その会社の知識や技術を共有するための文書です。その必要性がない会社はないと思います。

(2014/10作成)