社内公募制度とは

社内公募制度とは

配置転換、転勤、出向、昇進等の人事異動は、会社が一方的に命じて行うのが一般的でした。この方法が見直され、「社内公募制度」を導入する会社が増えています。

「社内公募制度」は、次のような流れで実施されます。

  1. 募集部門が社内に向けて、業務内容や必要な人材の条件を公開して従業員を募集する
  2. 異動を希望する従業員が応募する
  3. 募集部門が面接等の選考を行う
  4. 合格者の異動が成立する

従業員の自発的な意志に基づいて行われる所が、一般的な人事異動とは異なります。社内公募は、新規プロジェクトを立ち上げたり、業務を拡大したり、特別な業務が生じたりした場合に、実施するケースが多いです。

社内公募のメリット

モチベーションが向上する

「会社から与えられた仕事」ではなく、「自分で獲得した仕事」ですので、従業員のモチベーションが向上します。そして、持っている能力を最大限に発揮して、成果を上げることが期待できます。

また、入社後の配属先が希望していた部署と違う場合があります。自分も希望していた部署に異動できると期待することによって、必要な条件をクリアして、選考に合格できるよう能力の向上に励むようになります。

社内が活性化する

新しい仕事にチャレンジできるという前向きな環境が根付いて、固定化していた人材が流動化することによって、社内が活性化します。

また、会社が個々の従業員の得意分野や専門分野を把握していない場合に、社内公募をすることによって、隠れていた人材を見出せることもあります。適材適所の配置を実現する近道です。

退職を予防できる

希望する仕事ではないという理由で転職するケースがあります。しかし、個々の従業員について、現在の仕事が希望しているものかどうか、会社が把握することは難しいです。

社内公募をすることによって、それを明らかにすることができ、希望する部署に異動できると期待すれば、退職を予防できるようになります。

即戦力となる

外部から新しく採用しても、戦力として使えるようになるまで教育等のコストと時間が掛かることが多いです。社内の従業員であれば、即戦力として使えるかどうか分かりますので、コストと時間を節約できます。

社内公募のデメリット

モチベーションが低下する

募集人員を超える応募があった場合は不合格者が出ますし、必要な条件をクリアしていない場合も異動は実現しません。その場合は、モチベーションが低下することがあります。

異動が見送られた理由を丁寧に説明して、見通しやするべきことをアドバイスしたり、今後もチャレンジは可能で、期待を失わせないようフォローすることが大事です。

人間関係が悪化する

信頼していた部下が社内公募で他の部署に異動すると、上司は裏切られたと感じて人間関係が悪化することがあります。社内公募制度は、「出て行く人もいるけど、入って来る人もいる」と割り切ってもらうしかありません。

また、新しい仕事にチャレンジしたいという前向きな理由でなければ異動を認めないこと、今の部署に不満があって応募した場合は異動を認めないこと、を予め周知しておくことも大事です。

欠員が生じる

社内公募により異動すると、元の部署は欠員が生じますので、1人当たりの仕事量が増えます。

ケースバイケースで異動元に拒否権を認めるケースもありますが、そうなると制度が形骸化する恐れがありますので、拒否権は一切認めない方が良いです。異動の時期を調整したり、従業員を補充したり、別の対応策を検討することになります。

社内公募制度の注意点

応募したことは秘密にする

社内公募に応募するときに、上司を経由したり、上司の承認や推薦を必要とすると、上司は引き留めようとしますので、上司を経由しないで、直接人事部門に応募する仕組みとするべきです。

また、応募した事実が明らかになると、特に不合格になった場合は居辛くなってしまいますので、応募したこと、不合格になったことは上司や周囲には秘密にしないといけません。そうしないと、従業員は安心して応募できません。

上司には異動が成立した時点で、連絡をすることになります。

後ろ向きの応募は認めない

「上司が評価してくれない」「今の仕事がつまらない」といった後ろ向きの応募を認めても、期待する成果は得られません。制度の目的、目指す方向とは異なります。

募集する人材の条件に、「○○ができること」、「今の部署で○年以上勤務していること」、といった項目を設けて、面接で応募した動機をよく確認する必要があります。

成果主義との関係

賃金の決定方法が、従来の年功序列から成果主義にシフトしています。

個々の従業員の成果を評価して結果責任を取らせるのであれば、本人に裁量を与える必要があります。裁量がないにもかかわらず、結果責任を取らせることはフェアではありません。

従業員に対して成果を問う代わりに、仕事を選択できる裁量を与える制度として、社内公募制度が注目されています。

FA制度とは

社内公募より1歩進んだ制度として、FA制度があります。FA制度とは、一定の条件(勤続年数や成績など)をクリアした従業員が、異動を自由に申請できる制度で、受け入れ部署が応じれば異動が成立します。

社内公募は人員が足りている期間は行われませんが、FA制度は募集していない部署にも自発的に申請できる点が異なります。社内公募より自由度が高く、大企業でも取り入れている所はまだ少ないです。

自己申告制度とは

社内公募制度やFA制度より緩やかな制度として、自己申告制度があります。自己申告制度とは、会社(人事部門)に異動の希望を申告する制度です。人事異動の参考資料の1つとして使うために採用しているケースが多いです。

個々の従業員の希望を尊重するというより、全体を見渡しながら会社にとっての最適な配置を考えますので、従業員の希望どおり人事異動が行われるケースは少なく、「自分で仕事を獲得した」という実感は得にくいです。

(2020/5作成)