ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、ジョブ(職務)の内容を定義して、それを遂行できる人材を採用する方法です。アメリカやヨーロッパ各国で定着している仕組みで、職務、勤務地、労働時間などを限定して、雇用契約を締結します。

ジョブ型雇用について、日本経済団体連合会(経団連)が提言したり、日立製作所や富士通などの大企業が取り入れたりして、注目され始めています。

メンバーシップ型雇用とは

ジョブ型雇用の比較対象として、新卒一括採用、年功序列賃金、終身雇用を特徴とする従来型の日本の雇用形態のことをメンバーシップ型雇用と言います。また、職務、勤務地、労働時間などは、原則的に無制限です。

労働政策研究・研修機構 労働政策研究所の濱口桂一郎所長が「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」と名付けて、提唱し始めました。

雇用慣行の見直し

高度経済成長の時代は労働力を確保することが最重要で、従業員にできるだけ長く在籍してもらうために、企業は年功序列賃金と終身雇用を導入しました。退職金の制度もそうです。

しかし、現在は、競争力がない企業は淘汰されますので、年功序列賃金や終身雇用を約束することは困難です。「日本特有の従来の雇用慣行は見直すべきだ」という主張は数十年前から繰り返されてきたことですが、今回、ジョブ型雇用という形で議論が再燃しています。

採用方法

メンバーシップ型雇用の場合は、配属先を決めないまま採用して、採用した後に会社が配属先を決定します。雇用の起点が人で、「人に仕事を付ける」という言い方をします。また、会社組織の一員として働くことが求められますので、「入社」という言葉が当てはまります。

ジョブ型雇用の場合は、ポジションに空きが生じたときに、その職務を遂行できる人材を採用します。雇用の起点が仕事で、「仕事に人を付ける」という言い方をします。また、職務を限定して展開していきますので、「入社」より「就職」という言葉が当てはまります。

異動

メンバーシップ型雇用の場合は、従業員が定年退職するまで、会社が雇用を保障する代わりに、会社は一方的に従業員に異動を命じることができます。もし、従業員が異動を拒否した場合は、正当な解雇理由になります。

ジョブ型雇用の場合は、職務を限定して雇用しますので、会社が一方的に異動を命じることはできません。会社から従業員に異動を要求して、従業員が拒否したとしても、正当な解雇理由とは認めらません。会社の人事権は縮小します。

ジョブ型雇用になると、会社と従業員は主従関係から対等な関係に移行し、その代わりに会社は手厚い保障責任から解放されます。

退職者の補充

例えば、A部門の課長が退職した場合、メンバーシップ型雇用では、A部門の係長を課長に昇進させたり、B部門の課長を横にスライドしたりして、補充します。玉突き人事で異動をして、下位の業務を処理できる者を新しく採用することになります。

ジョブ型雇用の場合は、課長の職務を遂行できる能力や資格がある者を社内で公募して、適任者がいなければ社外から募集することになります。社外から募集する場合は、下位の人材を採用するより難しいことは容易に想像できます。

解雇

メンバーシップ型雇用の者が所属する部門を廃止することになった場合は、他部門に異動して、会社は解雇を回避することが求められます。異動を命じることができるから、解雇が困難になると言うこともできます。

ジョブ型雇用の者が所属する部門を廃止することになった場合は、異動は想定していませんので、原則的には解雇できます。ただし、部門を縮小する場合は、希望退職の募集やワークシェアリングの導入など、解雇を回避するためにできることは実施する必要があります。

ジョブ型雇用になると、従業員にとっては解雇されやすくなりますので、「それだったら異動しても良い」と考える者も多そうです。また、経団連では、プロフェッショナル人材を雇用することを「ジョブ型雇用」と捉えて、解雇に直結するものとは考えていないようです。

賃金

メンバーシップ型雇用の賃金制度は、一般的には職能給で、従業員の職務遂行能力を評価して決定します。通常、能力は徐々に上昇すると考えられますので、賃金も徐々に上昇します。

ジョブ型雇用の賃金制度は、一般的には職務給で、職務の内容に応じて決定します。能力が向上したとしても、同じ職務を行っている間は、賃金は上昇しません。賃金アップを目指すのであれば、職務のランクを上げないといけません。

また、従業員の私生活をサポートするための家族手当や住宅手当は、従業員を会社組織の一員として位置付けていることの表れです。ジョブ型雇用とは相容れない手当です。

残業

メンバーシップ型雇用の場合は、会社は自由に残業を命じることができます。また、他の部署が忙しいときは、上司から手伝うよう求められることもあります。

ジョブ型雇用の場合は、担当する職務以外のことは求められませんので、基本的には残業をすることはありません。

キャリア形成

メンバーシップ型雇用の場合、従業員のキャリア形成は会社が主体となって行います。定期的に配属先を変更するジョブローテーションを行ったりして、本人が望まない部署に配属されるケースもあります。幅広い知識を習得して、管理職として活躍できる人材を育成するためには、効率的な方法です。

ジョブ型雇用の場合は、キャリア形成は本人が主体となって行います。スペシャリストやプロフェッショナルとして、専門的な知識を習得する傾向があります。

職務記述書

ジョブ型雇用を導入する場合は、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作成して、職務を定義することが必須です。上から下まで全てのポジションを定めて、ポジションごとに行っている仕事の内容を分解して言語化します。最初は相当な労力が必要になります。

採用面接の際は、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に記載された事項を遂行できるかどうかを確認して、採用の合否判定を行います。採用した後は、職務記述書の記載事項を遂行できたかどうかを、会社が判断、評価します。

そして、経営環境が変化したり、組織を再編したりして、職務記述書(ポジション)を改定する場合は、労使間で合意が必要になります。

(2023/5作成)