インフレ手当

インフレ手当とは

物価が上昇して、賃金の額が変わらなければ、実質的な賃金が目減りすることになります。2022年から物価の上昇が顕著になり、1世帯につき1年間で8万円から10万円の負担増になると言われています。

各企業が従業員の生活費を補助するために、インフレ手当を支給したという報道が増えています。物価手当や生活応援手当といった名称で支給するケースもあります。

支給した企業の例

インフレ手当に関する調査

2022年11月に実施した帝国データバンクの調査によると、インフレ手当の支給に関して、次のような結果となりました。(回答した企業数は1,248社)

支給した6.6%
支給を予定している5.7%
支給を検討している14.1%
支給する予定はない63.7%

4社に1社の割合で、インフレ手当の支給に取り組んでいることが分かります。この調査から数ヶ月が経過して、物価上昇(光熱費の高騰や商品の値上げ)、インフレ手当の支給に関連する報道等を目にする機会が増えていますので、この割合は高まっていることでしょう。

一方、「支給する予定はない」と回答した企業が半数以上で、仕入価格の上昇等の影響を受けて、インフレ手当を支給する余裕がない企業も多いです。ただし、割合は不明ですが、インフレ手当は支給しないで、物価上昇を織り込んで相応の賃上げをする企業もここに含まれます。

インフレ手当の支給方法

インフレ手当は賞与と同じように(又は賞与に加算して)、一時金として支給するケースが多いです。

期間を区切って毎月支給する方法もありますが、余り望ましい方法ではないと思います。支給を開始した当初は従業員には喜ばれますが、数ヶ月もすればそれが普通になりますので、支給期間が終了すると、「賃金を減額された」と不満を持たれます。

同じ帝国データバンクの調査によると、インフレ手当を一時金で支給する企業の割合は66.6%、月例手当で支給する企業の割合は36.2%でした。そして、一時金で支給する企業のインフレ手当の支給額は、次のようになりました。支給額の平均は約53,700円です。

1万円未満11.9%
1万円以上3万円未満27.9%
3万円以上5万円未満21.9%
5万円以上10万円未満21.9%
10万円以上15万円未満9.1%
15万円以上7.3%

月例手当で支給する企業のインフレ手当の支給額は、次のようになりました。支給額の平均は約6,500円です。

3千円未満26.9%
3千円以上5千円未満30.3%
5千円以上1万円未満30.3%
1万円以上3万円未満11.8%
3万円以上0.8%

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金の観点から、支給対象者を正社員に限定することは問題があります。物価の高騰による影響は、正社員に限らず、パートタイマーや契約社員など全ての者に及びます。

生活費を補助するために支給するのであれば、支給対象者は全ての者とするべきです。ただし、支給額にある程度の差異を設けることは可能です。

就業規則の記載

インフレ手当を毎月支給する場合は賃金に該当しますので、就業規則(賃金規程)に支給額の決定方法、支給期間、支給対象者等について、記載する必要があります。また、割増賃金の基礎となる賃金に含めて計算しないといけません。

一方、一時金で支給する場合は、臨時に支給して、制度と呼べるものではないと思いますので、就業規則に記載する必要はありません。

社会保険料の取扱い

インフレ手当を一時金で支給しても月例手当で支給しても、どちらの場合も労働の対償と考えられますので、支給額に応じて雇用保険の保険料が掛かります。

社会保険(厚生年金保険と健康保険)においても、労働の対償と考えられます。したがって、月例手当で支給する場合は、固定的賃金の変動に当たりますので、随時改定(月額変更届)の対象になります(支給を停止する場合も同じです)。

また、算定基礎届の対象月の4月5月6月に支給する場合は、インフレ手当を含めて計算する必要があります。一時金で支給する場合は、賞与と同じ取扱いをして社会保険料を納付することになります。

ところで、インフレ手当は、臨時的・恩恵的に支給するもので、「労働の対償」には当たらないとする考え方もあります。一時金で1回だけ支給する場合は臨時的と言えるでしょう。しかし、結婚祝金や傷病見舞金は恩恵的な給付と言えますが、インフレ手当は通常の生活費に充当するものですので、恩恵的とは言えないと思います。

賃金の引上げ

物価がこの先どうなるのか予測することは困難です。インフレ手当を一時金で支給する理由の1つですが、将来、世界情勢が落ち着いて、「物価が下がることはないだろう」と判断できれば、インフレ手当として支給するより、基本給に組み込んだりして賃金を引き上げた方が良いと思います。

物価が下がっても賃金を引き下げることは難しいので、その判断は慎重に行うべきですが、従業員を募集する際に、賃金(基本給)が低いままでは、他社と比べて見劣りしてしまいます。

(2025/3作成)