配偶者手当の見直し|廃止・縮小の進め方と法的ポイント
配偶者手当とは|現状と企業動向
配偶者手当とは、配偶者を扶養している従業員に支給する手当で、家族手当や扶養手当という名称で支給することもあります。
令和6年の職種別民間給与実態調査(人事院)によると、家族手当の制度がある企業の割合は約74.5%で、配偶者が支給対象となっているのは全体の約53.5%となっています。この差の約20%は、家族手当の制度があっても配偶者は支給対象外となっています。
家族手当の制度が普及し始めた当時は、夫が専業主婦の妻を扶養する世帯が多数を占めていましたが、現在は女性の社会進出が進んで、共働きの世帯数が専業主婦の世帯数の2倍以上になって反転しています。時代を反映して、家族手当の制度があっても、配偶者を支給対象外とする企業が増加しています。
就業調整と年収の壁の影響
社会保険(厚生年金保険と健康保険)で設定されている年収の壁を意識して、パートタイマー等が就業調整を行うことがありますが、配偶者の会社から支給される家族手当についても、就業調整を行う要因になっています。その結果、人員の確保が難しくなったり、他の従業員の負担が増えたり、悪影響が生じています。
これを解消するために、「年収の壁・支援強化パッケージ」によって、政策として取組が進められています。この中に、配偶者手当の見直しを促進することが含まれていて、見直しの手順をフローチャートで示したり、中小企業団体等を通じて周知したりすることが定められています。
労働契約法上の注意点(第9条・第10条)
政策によって配偶者手当の見直しが促進されているとしても、労働契約法が適用されます。就業規則(賃金規程)を作成して、家族手当の規定を設けている会社が多いと思いますが、労働契約法(第9条)によって、会社が一方的に就業規則を不利益に変更できないことが定められています。
ただし、労働契約法(第10条)によって、次の事項を総合的に考慮して合理的なものであるときは、従業員から同意が得られなくても、就業規則の不利益変更が認められます。
- 従業員の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
配偶者手当見直しの具体的な手順
厚生労働省が作成したフローチャートでは、配偶者手当の見直しの手順と留意点が示されています。ただし、配偶者手当を含む賃金制度は、各企業の実情に応じて定めるものですので、具体的な対応方法は企業ごとに検討する必要があります。
①賃金制度の見直しを検討する
他社の事例等を参考にして、自社の案を検討します。他社の事例として、次のような方法が挙げられています。
| 配偶者手当の 廃止又は縮小 | +基本給の増額 +子供手当の増額 +資格手当等の創設 |
また、管理職に支給する家族手当(配偶者手当)を廃止する方法もあります。なお、一般職の国家公務員の給与制度が改正されて、一定の職務の級以上の職員については、子供を対象とする扶養手当のみ存続して、配偶者を対象とする扶養手当が廃止されました。
②見直し案を策定する
従業員の要望に応えられるように、ヒアリングやアンケートを実施して、いくつかの案に絞り込みます。変更後の制度の納得を得るために、全ての従業員に関与する機会を与えることが望ましいです。
ヒアリングは従業員数に応じて、個別に実施、部門ごとに実施、少人数グループに分けて実施する方法が考えられます。男女の構成比、年齢の分布、支給対象者の割合等によって、企業ごとに従業員の求める内容が異なると思います。
労使の総意として、「賃金は成果に応じて支給するもの」と考えるのであれば、配偶者手当に限らず、家族手当全体の廃止や縮小も見直しの対象になり得ます。また、家族手当は扶養していることを条件とするケースが一般的ですので、男性従業員に支給される傾向があり、男女間の賃金格差を生む要因と考えられています。
女性従業員を戦力として期待している企業から、住宅手当(世帯主であることを条件とするケースが一般的で、同様に男性従業員に支給される傾向があります)も含めて見直しが進んでいます。
一方、従業員が「安心して働けるように、生活費の負担を軽減して欲しい」と考えて、会社もそうしたいと考えるのであれば、子供手当を増額したり、介護を必要とする両親を支給対象に加えたりする方法が考えられます。出産時や入学時に一時金として支給する方法もあります。
③見直し案を決定する
労使間で話し合って見直し案を決定します。制度変更の納得性を高めるために、会社による一方的な制度変更とならないように、労使間で意見を擦り合わせて決定することが望ましいです。
労働組合がない場合は労使委員会を設置して、従業員を代表する委員として複数の者を選任して、会社との協議・交渉に参加してもらう方法もあります。どこからも不満が出ない形で合意できれば別ですが、丁寧に話し合うことが重要ですので、1年以上掛けて決定するケースが多いです。
従業員から納得を得るために、人件費の削減が目的であると受け取られないよう注意しないといけません。全体で見て不利益にならないように、賃金原資の総額は維持して、配偶者手当の廃止・縮小によって見込まれるコスト減は、別の形で従業員に還元・分配する必要があります。
また、従業員の受ける不利益の程度が、就業規則の不利益変更の考慮要素として定められています。配偶者手当が減額される者は、大きな影響を受けますので、半年間は従来どおりの額を支給して、その後3年間で段階的に支給額を減額するといった経過措置(不利益緩和措置)を設けるべきです。減額幅は昇給によって吸収できる程度が理想です。一部を賞与で補填する方法もあります。
④決定した新制度の説明を行う
説明会を開催する等して、制度変更の趣旨及び決定した新制度について、資料を配付して説明を行います。
特に手当が減額される従業員には丁寧な説明が求められます。減額される従業員から多数の同意が得られれば、就業規則の不利益変更が認められやすくなります。そのため、説明をする際は質疑応答の時間を設けて、説明会の後も個別にメール等で質問を受け付けることが望ましいです。
配偶者手当の在り方と今後の方向性
厚生労働省が作成したパンフレット「配偶者手当の在り方の検討に向けて」(実務資料編)では、更に詳しい資料や企業の事例が掲載されています。18社分の企業事例が掲載されていますので、参考になるケースがあると思います。
配偶者手当の見直しは、年収の壁対策として国も推進していますので、、今後も広がると考えられます。ただし、就業規則の不利益変更に該当しますので、労働契約法に基づいた慎重な対応が必要です。
(2026/3作成)
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執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。メールを用いた関連サービスは20年以上の実績があり、全国の中小零細企業を対象に、これまで900社以上の就業規則の作成・変更に携わってきました。
