自家用車の業務利用

自家用車の業務利用

自家用車による通勤を認めている会社がありますが、中には、自家用車を業務に使用することを前提にして採用している会社もあります。しかし、交通事故が発生した場合のことを想定していないと、大きな問題に発展する危険があります。

経費の削減

業務を遂行するために自動車が必要な場合は、会社が自動車を購入して、社用車として従業員に利用させるのが本来の姿です。しかし、会社が自動車を購入しないで、従業員の自家用車を業務に利用することによって、自動車の購入費用だけではなく、自動車税、重量税、自賠責保険、任意保険、車検、メンテナンス、修理など、会社は経費を大幅に削減できるというメリットがあります。

また、従業員にとっては、慣れない社用車より、自家用車の方が運転しやすいという安心感があります。

ガソリン代等の費用負担

業務に要する費用は必要経費として、会社が負担しないといけませんので、業務で使用した距離を基準にしてガソリン代(例:1kmにつき10円など)を支払っているケースが一般的です。なお、ガソリン代については、「走行距離×ガソリン単価/平均燃費」で算出できます。

また、会社が社用車を購入した場合に負担するべき維持費を従業員に負担させていることになりますので、ガソリン代とは別に、自動車の購入費用や維持費の一部として、ガソリン代に上乗せして支払ったり(例:1kmにつき5円など)、予め指定した費用(任意保険料、自動車税、車検費用など)の一定割合や一定額を支払ったりしている会社も多いです。ガソリン代に相当する費用を支給しているだけでは、従業員に不満を持たれると思います。

なお、支給基準が明確で、実費に相当する金額を支払っている場合は、必要経費(実費弁償)として賃金には該当しません。しかし、業務で使用した距離等に関係なく、毎月、一定額で支払っている場合は、ガソリン代等の業務に要した費用を補助する目的で支給していたとしても、賃金に該当すると判断される可能性が高いです。賃金に該当すると、割増賃金の基礎となる賃金に含めないといけません。

事故発生時の責任

会社が自家用車の業務利用を明確に禁止していて、従業員が自家用車で通勤中に交通事故を起こした場合は、本人の責任になります。原則的には、会社に責任が及ぶことはありません。一方、従業員の自家用車を業務に利用していて、従業員が交通事故を起こした場合は、使用者責任や運行供用者責任に基づいて、会社は被害者に生じた損害を賠償する責任を負います。

使用者責任については、民法で、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。

運行供用者責任については、自動車損害賠償保障法で、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定されています。

従業員が加害者になって、被害者を死亡させたり、被害者に後遺症が残ったりすると、損害賠償額は数千万円に及びます。まずは、従業員が加入している任意保険が適用されますが、任意保険で足りない部分については、会社の責任で補償しないといけません。

勤務時間中の交通事故は当然ですが、通勤中の交通事故であっても、業務で利用するために自家用車を会社まで移動していた最中に起きた事故と考えられますので、会社に損害賠償責任が生じます。

また、会社が自家用車の業務利用を形式上は禁止していても、黙認している場合は、会社に損害賠償責任が生じます。自家用車の業務利用を認めるのか認めないのかを明確にするべきです。

そして、業務利用を認めない場合は、違反して業務に利用した従業員は懲戒処分を行うなど、厳しく対処するべきです。違反者を見過ごしていると、会社は黙認していたと判断されます。会社が明確に業務利用を禁止しているにもかかわらず、従業員が無断で自家用車を業務に利用して交通事故を起こしたときは、原則的には、会社の損害賠償責任は否定されます。

なお、日常的に自家用車の業務利用を求めていない場合であっても、通勤途上に取引先がある従業員に、商品の受渡しを依頼したりして、通勤途中に取引先に立ち寄るケースがあります。そのような場合も業務利用に当たります。

自動車保険の加入

従業員の自家用車を業務に利用する場合は、会社は損害賠償責任を回避することは不可能です。自家用車の業務利用は原則的には禁止しておいて、業務に必要な場合は、十分な任意保険に加入していることを条件として、許可制にするべきです。補償内容については、【対人賠償は無制限、対物賠償は無制限、人身傷害補償は1億円以上】を許可の基準としておけば安心です。

また、任意保険に加入する際は、車の使用目的を告知する必要があり、業務に使用する頻度によっては、使用目的を業務用に変更しないといけません。正しく告知していないと、保険金が支払われない恐れがあります。1ヶ月に15日以上業務に使用するかどうかを基準としている保険会社が一般的ですが、個別に確認をする必要があります。使用目的によって保険料が変わります。

業務利用許可の有効期限

任意保険には有効期間が設定されていますので、未加入の状態にならないように、業務利用の許可にも有効期限を設定して、任意保険の有効期間と一致させる必要があります。

そして、業務利用の許可は自動更新しないで、毎年、任意保険契約書の写し、運転免許証の写し、車検証の写し、自賠責保険契約書の写し、を提出してもらって、有効期間等の確認をすることが重要です。なお、運転免許証は、停止や取り消されたりしていないことを確認するために、同時に現物も提示してもらった方が良いです。

取扱い規程の作成

従業員の自家用車を業務に利用する場合は、取扱いのルールを定めた規程の作成をお勧めします。許可の基準、更新の手続き、費用の負担、遵守事項、禁止事項等を定めて、従業員に周知をすれば、違反行為等があった場合に、会社から注意や指導がしやすくなります。

安全運転管理者の選任

道路交通法によって、自動車を5台以上使用している会社は、安全運転管理者を選任することが義務付けられています。従業員の自家用車を業務に使用している場合は、それも台数に数えます。

そして、安全運転管理者を選任・変更したときは、警察署を経由して、公安委員会に届け出ないといけません。安全運転管理者は、交通安全教育指針に従って、自動車を運転する従業員に交通安全教育を行ったり、安全な運転に必要な業務を行うこととされています。

(2024/5作成)