賞与の法律実務

賞与

賞与は、ボーナスや一時金と呼ばれたりしますが、会社や社員の間で誤解や思い込みが多いように感じます。

中には、残業手当を支払うことより、賞与の支払いを優先させている会社も少なくありません。

賞与は、会社の裁量が大きいので有効に活用したいものです。

賞与の支給は義務ではない

賞与は、法律で支給が義務付けられているものではありません。

通達では、「賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう」と定義されています。

支給額が予め確定されていないということは、支給額が増減したり、不支給もあり得るということです。

賞与は予め支給額を約束している賃金と違って、支給の有無や支給する場合の金額は、原則として会社が自由に決定することができます。

賞与の支給を約束している場合

しかし、就業規則や雇用契約書で、例えば、「基本給の○ヶ月分の賞与を支払う」としていたり、年俸制で「年俸の16分の4を賞与として支払う」としていたりして、賞与の金額(の決定方法)を具体的に約束している場合は別です。

就業規則や雇用契約書に基づいて、約束したとおりの金額の賞与を支払う義務があります。

一方、就業規則(賃金規程)で、「賞与は原則として○月及び○月に支給する。ただし、会社の業績その他やむを得ない事由がある場合は、支給時期を変更し、又は支給しないことがある」としているような場合は、業績等によって不支給とすることも可能です。

賞与の支払より残業手当の支払を優先するべき

お伝えしましたとおり、賞与は法律で支払を義務付けられているものではありませんが、残業手当は労働基準法で支払が義務付けられています。

「労働基準法どおりの残業手当を支払っていたら経営できない」と言いながら、1人あたり数十万円の賞与を支払っているケースがあります。

これは法律的には、間違いです。

賞与を支払う余裕があるのであれば、それを全額残業手当の支払に回すべきです。賞与を支払わなかったとしても法律違反になることはありませんが、残業手当の不払は労働基準法違反になります。

賞与の支給日在籍要件

通常、賞与は、支給対象期間を設定して、その期間の会社の業績や各人の成績等を考慮して支給額を決定します。

このときに問題になりやすいのが、賞与の支給対象期間は勤務していたけれども、賞与の支給日の前に退職する社員が現れたときです。このような社員には、賞与を支給しなくても良いのでしょうか?

社員の立場に立ってみると、「賞与は、支給対象期間の勤務に対して支給するのだから、支給対象期間に勤務していれば、賞与をもらう権利がある」と考えるでしょう。

しかし、法律的な判断はそうではありません。

就業規則(賃金規程)に、「賞与の支給対象者は、支給日現在在籍している従業員に限る」というように、賞与の支給日に在籍していることを条件としている場合は、不支給とすることができます。

自己都合で退職する場合は、社員が退職日を自由に決めることができますので、不支給にしても有効と認められます。

一方、就業規則(賃金規程)に、支給日に在籍していることを条件とする規定がない場合は、これまでの慣行が重視されます。しかし、規定がないとトラブルの原因になりますので、支給日在籍の条件を規定しておくことが大事です。

ただし、賞与の支給日が例年より遅れたために、予定していた支給日には在籍していたけれども、実際の支給日には既に退職していた場合は、退職していても通常どおりの賞与を支払う必要があります。

退職予定を理由とする賞与の減額

賞与は、賃金の後払い的な性質、功労報償的な性質を併せ持っていますが、将来の頑張りに対する期待を込めて支給する意味もあります。

したがって、退職を予定している社員に対しては、将来の期待を込めて支給する部分については減額できると考えられますが、必要以上に減額してしまうと違法と判断されます。

限度を超える減額はできない

賞与は、会社の業績や各人の成績等を考慮して、会社が支給額を決定するもので、会社の裁量によります。

したがって、欠勤や遅刻があったこと、懲戒処分を受けたこと、会社に損害を与えたこと等を総合的に考慮して、他の社員より賞与を減額しても構いません。

「様々な事情を総合的に評価した結果、賞与はこの金額になった」と説明できる範囲内であれば問題ないのですが、相当な理由がないにもかかわらず、賞与を全額不支給にしたり、必要以上に減額することは認められません。

(2011/7作成)
(2014/5更新)