社会保険の適用拡大
社会保険の適用拡大
厚生年金の適用基準を見直してパートタイマーにまで拡大されようとしています。
厚生年金の適用範囲が拡大されると、企業にとっては保険料負担が増加することになります。
適用拡大の経緯
パートタイム労働者の増加
(週35時間未満の)パート労働者は平成13年に1200万人を超え、労働者全体の2割強となりました。平成9年から平成13年の間に、正社員が170万人減少する一方で、パートは200万人の増加です。
特に最近では、コストダウンのためにパートを採用する企業が増加しています。
社会保険制度の財政難
配偶者(夫)が厚生年金や健康保険に加入していて、本人(妻)の年収が130万円未満の場合は、被扶養者(3号被保険者)となり保険料を負担せずに、給付を受けることができます。
年金については国民年金(老齢基礎年金)を満額受給でき、健康保険については配偶者が加入する所から療養の給付などを受けることができます。
このような、社会保険に加入しない労働者の増加により、保険料収入が減少していて、社会保険制度に大きな影響を与えています。
適用基準が現状のままでは、少子高齢化の進行と相まって、ますます加入者数が減少(財源不足が拡大)していくことになります。加入者数を増やして、将来の保険料負担の上昇を抑えることが、適用拡大の目的の1つです。
就業調整
現在、被扶養者の年収基準(130万円)や税金などの関係で、収入が一定金額を超えないようにする就業調整が行われています(パート全体の2割強)。
改定では、働くと損するような逆転現象が起きないように、働いた分だけ見返りがある中立的な制度を目指しています。(配偶者控除については、逆転現象は既に解消されています。)
モデル年金と実態との乖離
現在の年金制度は、「40年間平均的な賃金で働いた夫」と「全期間専業主婦だった妻」という夫婦を標準(モデル)にして、夫と妻の年金額の合計が、現役男性労働者の年収(手取り)平均の6割となるように設定されています。
このモデル年金と、専業主婦より働いている女性の方が多い現在の実態とが、かけ離れています。改定では、女性も一定期間厚生年金に加入することを前提としたモデル年金を想定しています。
今後の対応
社会保険の適用基準
現在の社会保険の適用基準は、「1日の勤務時間と1ヶ月の勤務日数がともに、正社員のおおむね4分の3以上」とされています。
この適用基準を、「週の労働時間が20時間以上、又は年収65万円以上」と拡大する案が出されています。「又は」ですから、どちらか一方だけでも基準に達すれば適用されます。
同研究会の試算によると、新基準による加入者数は、「週20時間以上」で300万人、「年収65万円」で更に90万人増加する見込みです。
なお、今議論されているのは、厚生年金についてですが、健康保険についても現在同じ基準で運用されていることから、厚生年金の適用基準が改定されるときは、同時に健康保険についても改定される見通しです。
企業の対応
財団法人21世紀職業財団の「多様な就業のあり方に関する調査」(01年)によると、社会保険の適用について、現在の企業側の対応は次のようになっています。
適用の有無については、パート本人に選択させている。 | 47.5% |
すべてのパートが適用されないようにしている。 | 21.5% |
すべてのパートに適用している。 | 18.8% |
また、同じ調査で、社会保険の適用が拡大された場合、どのように対応するかという設問については、次のような結果になっています。
適用を避けるために特段の措置は講じない。 | 44% |
新たな適用対象者の一部について適用を避ける。 | 32% |
新たな適用対象者すべての適用を避ける。 | 13% |
企業側の具体的な行動として、「パートの業務を外注に置き換えて適用を避ける」、「派遣労働者の活用」といった回答が見られましたが、効果は限定的なようです。
社会保険の適用回避
適用基準が拡大された場合、以下の理由から適用を避けることは難しいと考えられます。
パート労働者にとっては、年収を65万円未満にすると、保険料負担がないとしても、手取りが大幅に減少する者が多い。
- 「パート労働者総合実態調査」(平成13年)によると、女性パートの1年間の平均年収は115.8万円で、70万円未満のパートの割合は全体の12.7%程度にとどまります。
- また、女性パートの平均時給は891円(「賃金構造基本統計調査」平成14年)で、20時間未満の場合でも、実際には多くのパートが適用の対象となります。時給が891円の場合、年収を65万円以下にするには、週の労働時間を14時間程度にする必要があります。
企業にとっては、パートの人数を増やして適用を避けようとしても、逆に管理コスト(採用コスト、交通費、教育訓練コストなど)がかさみ、現実的ではないようです。
最後に
前回の2004年の年金制度改正のときは経済界の反発が強く、適用範囲の拡大は見送られましたが、年金財政を見るとパートタイマーにまで拡大しないと持ち堪えられないと予想されます。
近い将来、適用範囲の拡大は避けて通れないでしょう。法改正されて、いきなり赤字転落とならないよう、今の内に試算しておくことをお勧めします。
また、改正に備えて、対応策の方向性だけでも検討しておく必要があると思います。
(2003/6作成)
(2006/8更新)