パワハラ防止法の概要

パワハラ防止対策の法制化

セクシュアル・ハラスメントについては、男女雇用機会均等法によって、会社は適切に対応するための体制を整備したりして、必要な措置を講じることが義務付けられています。

マタニティー・ハラスメントについては、育児介護休業法によって、会社は解雇などの不利益な取扱いをすることが禁止されています。

パワー・ハラスメントは、それが原因で退職したり、休職したり、うつ病を発症したり、自殺に追い込んだりして、社会問題になっていますが、法律による規制がありませんでした。

今回、労働施策総合推進法が改正され、企業に対してパワハラを防止するための措置を講じることが義務付けられるようになりました。

この法律の正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」と言い、「パワハラ防止法」と呼ばれることもあります。従来は「雇用対策法」というシンプルな名称だったのですが、働き方改革関連法によって名称が変更されました。

労働施策総合推進法に追加された内容をご案内いたします。

パワー・ハラスメントとは

労働施策総合推進法では、パワー・ハラスメントを次のように定義しています。

  1. 職場において行われる
  2. 優越的な関係を背景とした言動であって
  3. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  4. 就業環境が害されること

これらのいずれかを満たさないケースは、(例えば、Bについて、業務上適正な範囲内の指示や指導であれば、)パワハラには該当しません。なお、@の「職場」については、日常的に出勤している場所でなくても、業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。

パワハラを防止するための措置

会社はパワハラに適切に対応するために、従業員からの相談に応じる体制を整備したり、必要な措置を講じることが義務付けられます。【第30条の2第1項】

男女雇用機会均等法にも同様の規定があって、セクハラに関する相談窓口を設けることが義務付けられています。パワハラに関する相談にも応じられるよう体制を整備する必要があります。

不利益な取扱いの禁止

従業員がパワハラに関する相談をしたことを理由として、会社は解雇などの不利益な取扱いをすることが禁止されます。また、その相談の対応に協力した従業員が事実を述べたことを理由として、不利益な取扱いをすることも禁止されます。【第30条の2第2項】

男女雇用機会均等法(セクハラ)と育児介護休業法(マタハラ)にも、ハラスメントに関する相談をしたこと等を理由として、不利益な取扱いを禁止する規定が設けられます。

指針(ガイドライン)

パワハラに該当するかどうか、パワハラの防止措置、不利益取扱いの禁止に関して、法律の条文だけでは判断が難しいケースがありますので、具体的な内容を定めた指針(ガイドライン)が公表されることになっています。【第30条の2第3項】

この指針(ガイドライン)に沿って措置を講じたりすれば、適切にパワハラ防止法に対応できるようになります。正式な指針(ガイドライン)が公表されたときは、事務所便りでご案内する予定です。

会社及び従業員の責務

パワハラ問題への関心と理解を深めて、他の従業員に対する言動に注意を払うようにするために、会社は従業員に対して研修を実施したり、必要な配慮をするよう努めなければならないことが規定されます。【第30条の3第2項】

また、経営者自身もパワハラ問題への関心と理解を深めて、従業員に対する言動に注意を払うよう努めなければならないことが規定されます。【第30条の3第3項】

更に、従業員もパワハラ問題への関心と理解を深めて、他の従業員に対する言動に注意を払うとともに、会社が講じるパワハラの防止措置に協力するよう努めなければならないことが規定されます。【第30条の3第4項】

紛争の解決の促進に関する特例

労使間でパワハラに関する紛争が生じたときは、都道府県労働局長による援助、及び、紛争調整委員会による調停の対象になります。【第30条の4】

労使間で生じた個別労働関係紛争の解決制度としては、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会による“あっせん”がありますが、パワハラに関する紛争については、都道府県労働局長による助言・指導に加えて勧告もできるようになり、“あっせん”ではなく調停が適用されます。

男女雇用機会均等法(セクハラ)と育児介護休業法(マタハラ)にも同様の規定が設けられています。なお、“あっせん”は自主的な解決を図る制度ですが、調停は参考人に出頭を求めて意見を聴いたり、調停案の受諾を勧告できたりする制度で、“あっせん”より強制力があります。

都道府県労働局長による援助

労使間でパワハラに関する紛争が生じて、紛争の当事者の双方又は一方が解決のために援助を求めた場合は、都道府県労働局長は紛争の当事者に対して、必要な助言、指導、勧告をすることができます。【第30条の5】

紛争調整委員会による調停

労使間でパワハラに関する紛争が生じて、紛争の当事者の双方又は一方が調停を申請して、都道府県労働局長が紛争の解決のために必要と認めたときは、紛争調整委員会による調停が行われます。【第30条の6】

公表

都道府県労働局長から勧告を受けたにもかかわらず、勧告に従わなかったときは、厚生労働大臣はその旨(企業名)を公表することができます。【第33条第2項】

パワハラの防止措置を講じていないとき、不利益な取扱いをしたときは、会社は法律違反をしていることになりますので、都道府県労働局長から是正するよう勧告されることがあります。

報告の請求及び罰則

厚生労働大臣は企業に対して、パワハラの防止措置、不利益取扱いの禁止に関して、報告を求めることができます。【第36条】

企業が報告をしなかったり、虚偽の報告をしたときは、20万円以下の過料に処することが規定されます。【第41条】

パワハラ行為に対する罰則はありませんが、万一、会社がパワハラ行為を放置して、うつ病や自殺に至った場合は、損害賠償を請求されます。

施行時期

パワハラ防止対策を定めた労働施策総合推進法は、大企業は令和2年6月1日から、中小企業は令和4年4月1日から施行されます。

(2021/12作成)