退職代行サービス利用時の対応

退職代行サービスとは

退職代行サービスとは、従業員に代わって会社に退職の意思を伝えるサービスのことを言います。数年前から一般的に知られるようになって、若年層で利用する人が増えています。

退職代行サービスを利用する場合は、「○○さんは明日から出勤しません。本人には直接連絡をしないでください。」と、退職代行業者から急に電話が掛かってくるケースが多いです。初めて退職代行業者から連絡が来たときは、どのように対応すれば良いのか戸惑います。

退職代行業者の違い

退職代行業者は、次の3種類に分類されます。

弁護士

弁護士は本人に代わって、法律事務(退職日の調整、年次有給休暇の請求、退職条件の交渉など)を行うことができます。また、未払いの割増賃金がある場合は、退職代行と同時に支払うよう請求されるケースもあります。

弁護士の資格がない

弁護士の資格がない退職代行業者は、弁護士法によって、法律事務(退職日の調整、年次有給休暇の請求、退職条件の交渉など)を行うことが禁止されています。調整や交渉が必要なときは、文書に整理して、退職代行業者を介して、本人とやり取りをすることになります。会社と従業員の間の伝達役という立場になります。

弁護士の資格がない退職代行業者から未払いの割増賃金の支払いを求められたときは、違法行為ですので、交渉に応じる必要はありませんが、実際に未払いの割増賃金がある場合は放置することはできません。本人が労働基準監督署に申告をして、調査に入られる可能性があります。

労働組合(ユニオン)

労働組合は団体交渉を行うことが認められています。従業員が労働組合(合同労組やユニオン)に加入した場合は、弁護士と同様に、労働組合は退職条件等に関する交渉を行うことができます。労働組合から交渉を求められたときは、会社は応じる必要があります。

退職の自由

民法によって、無期雇用の従業員については、2週間前に申し出れば、退職できることが定められています。従業員には退職の自由が保障されていますので、会社が退職の申出を拒否することはできません。従業員が会社に退職届を提出すれば、それで退職が成立します。会社の承認や許可は不要です。

また、有期雇用の従業員については、原則的には、その期間が満了するまで勤務を継続する義務がありますが、「退職したい」と思っている者を無理に引き留めても、通常はデメリットの方が大きいです。

退職代行業者が誰であっても、速やかに退職の手続きを進めるのが賢明です。退職代行サービスの利用料は、3万円〜5万円が相場です。従業員は様々なことを検討して、利用料を支払った後で、退職の意思が変わることはありません。

退職届と委任状の確認

最低限、退職届と委任状(又は契約書)を確認して、本人に退職の意思があること、退職代行業者に依頼したことの確認は必要です。労働組合(合同労組やユニオン)の場合は、加入届等で、従業員がその労働組合に加入したことを確認します。

委任状(又は契約書)がないと、従業員が依頼したことを確認できませんし、無関係の者に個人情報を提供することはできませんので、委任状(又は契約書)は提出してもらうべきです。

また、なりすましの可能性もありますので、念のため、一度はメールや電話で直接本人に連絡を取ってみた方が良いでしょう。実際に退職代行業者に依頼している場合は、「会社とやり取りは一切不要です」と宣伝しているパターンが一般的ですので、本人に連絡をしても繋がらないと思います。

年次有給休暇の取得

従業員が退職日まで年次有給休暇を取得すると請求してきたときは、原則的には応じる必要があります。なお、年次有給休暇は、従業員の請求に基づいて取得するものですので、請求がない場合は、会社が勝手に年次有給休暇を消化することはできません。

また、弁護士の場合は、未消化の年次有給休暇の買取りを求めてくることも考えられますが、応じる義務はありません。

業務の引継ぎ

退職代行サービスを利用する場合は、業務の引継ぎを怠るケースが多いです。場合によっては、引継ぎの資料をまとめて提出するよう本人に命じることも考えられます。

なお、「退職するときは引継ぎを行わなければならない」と就業規則に規定して、これに違反したとしても、無駄な時間を費やすだけですので、懲戒処分はしない方が良いと思います。

貸与品の返還

会社からの貸与品は退職日までに返還させて、貸付金等がある場合は退職日までに返済させる必要があります。後から追加で求めることがないように、貸与品(携帯電話、制服、社員証、名刺、健康保険被保険者証、備品など)のリストを作成して、明示すると良いでしょう。

また、従業員の私物が職場に残っている場合は、会社に取りに来るよう求めて、それに応じなければ、本人に確認した上で、着払いで郵送するケースもあります。

不正行為の調査

横領等の重大な違反行為を犯している可能性もゼロではありません。念のため、不正行為がないか調査をしておくべきです。また、他の従業員から借金をしているような場合もあります。

退職代行サービスを利用する理由

なぜ、数万円も支払って、従業員は退職代行サービスを利用するのでしょうか。

会社から「退職したら損害賠償を請求する」と不当に脅されたり、精神的に弱っているような場合でない限り、退職代行サービスを利用するメリットはありません。退職の自由が保障されていること(会社の承認や許可は不要で自由に退職できること)を知らない人が多いように感じます。

会社としては、退職代行サービスを利用する従業員に対して、「不義理なことをしてけしからん」、「引き留めたりしないのに」、「依頼した理由を聴きたい」、と怪訝に思うかもしれません。「相談できる人がいない」、「話しにくい」、「困ったときに誰も助けてくれない」など、退職を言い出しにくい職場環境ということはないでしょうか。在宅勤務が増えて難しい面もありますが、新入社員をフォローしたり、職場環境を見直すことも大事です。

(2024/4作成)