シフト制の注意点

シフト制とは

販売業、飲食業、接客業など、年中無休としていたり、営業時間が8時間を超えたり、人材確保の都合等で、出勤日や労働時間を一律に定めることが難しい企業では、シフト制を採用するケースが多いです。

シフト制とは、1ヶ月や1週間など一定期間ごとに、シフト表を作成して、個々の従業員の具体的な出勤日と労働時間を確定する勤務形態のことを言います。

シフト制は、アルバイトやパートタイマーなど、時間給制の者に適用することが多く、一定期間ごとの状況に応じて柔軟に出勤日や労働時間を設定できることから、労使双方にメリットがある制度と言えます。

しかし、シフト表を作成する際に、個々の従業員の希望を優先すると、人員の過不足が生じたり、反対に、業務の都合を優先すると、従業員の希望と異なったりして、不満が生じることがあります。

労働条件の明示

シフト制で勤務をする従業員であっても、労働基準法はそのまま適用されます。従業員を採用するときは、一定の労働条件について、書面(雇用契約書や労働条件通知書)で明示することが義務付けられています。

シフト制で勤務をする場合は、その労働条件の中でも、「始業時刻、終業時刻、休日」が特に問題になりやすいです。「シフト表による」と記載するだけでは不十分で、原則的な「始業時刻、終業時刻、休日」を記載した上で、一定期間分のシフト表を同時に交付することが望ましいです。

「始業時刻、終業時刻、休日」が確定していない場合は、設定方法や考え方を明示する必要があります。入社した後に、「思っていたシフトと違う」と不満を言い出すことがありますので、採用を決定する前に、次の事項について話し合って、個々の従業員と合意しておくことが望ましいです。

また、雇用保険や社会保険の加入基準を満たしたり、満たさなかったりすると、問題になる恐れがありますので、その点も考慮しておくべきです。

シフト表の決定方法

具体的なシフトを決定する際は、次のような事項について、取り決めておくことが望ましいです。

従業員に通知したシフト(出勤日や労働時間)は、具体的な労働条件として成立します。

シフトを変更する場合は、労働条件の変更に該当しますので、原則的には会社と本人が合意した上で進める必要があります。

なお、就業規則で規定していれば、休日の振替や休日勤務、時間外勤務を命じることができます。会社又は従業員の都合で、確定したシフトを変更することがある場合は、その期限や手続きのルールを決めておくと良いでしょう。

労働時間及び休憩時間

1日8時間、1週40時間という法定労働時間は、シフト制で勤務をする者にも適用されますので、シフトは、この範囲内で設定する必要があります。休日についても、法定休日が定められていますので、少なくとも週1日は休日を確保して、シフトを設定する必要があります。

また、この法定労働時間を超えて(又は法定休日に)勤務させたときは、割増賃金を支払うことが義務付けられます。

休憩時間に関する規定も適用されますので、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩時間を、労働時間の途中に与えることが義務付けられます。休憩時間は複数回に分割して与えることは可能ですが、終業時刻の後に与えることはできません。

なお、休憩時間は労働から完全に切り離されている必要があります。呼び出されたら直ぐに作業に取り掛かれるよう待機している時間は手待時間として、現実に作業をしていなくても、休憩時間を与えたことにはなりません。

年次有給休暇の付与

6ヶ月間継続勤務をしたときは、10日分の年次有給休暇を付与することが義務付けられます。ただし、1週間の所定労働時間が30時間未満で、1週間の所定労働日数が4日以下の者については、10日より少ない日数とすることが認められています。

1週間の所定労働日数が決まっていない場合は、過去1年間の所定労働日数を数えて、216日(6ヶ月間の場合はこの半分)以下であれば、1週間の所定労働日数が4日以下と同じ扱いになります。

そして、従業員は、請求した時季に年次有給休暇を取得できます。「希望を聴いてシフトを決定したのだから、年次有給休暇の取得は認めない」という対応は違法です。

取得したときは、その日の所定労働時間勤務したとみなして、その時間分の賃金を支払います。就業規則で定めていれば、平均賃金で支払う方法も認められています。なお、年次有給休暇は出勤日に取得するものですので、休日に取得することはできません。

休業手当の支払い

労働基準法によって、会社の都合で休業させたときは、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う義務があります。シフトを決定した後に、会社が一方的にシフトを取り消すような場合に該当します。ただし、地震や台風等の不可抗力が原因で営業できないような場合は該当しません。

社会保険の加入

社会保険(厚生年金保険と健康保険)については、1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の者は、加入しないといけません。

ただし、一定規模以上の企業(特定適用事業所)については、正社員の4分の3未満であっても、次の要件を全て満たしている者は、加入が義務付けられます。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上
  2. 賃金が月額8.8万円以上
  3. 学生でない

雇用保険については、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用する見込みがある者は、加入しないといけません。

労災保険は個人ごとの加入手続きは不要で、全ての従業員が対象になります。シフト制の従業員であっても、業務災害や通勤災害に遭ったときは、労災保険の給付を受けられます。

健康診断の実施

労働安全衛生法によって、雇入れ時の健康保険、及び、定期健康診断を実施することが義務付けられています。ただし、1週間の所定労働時間が正社員の4分の3未満の者、又は、1年以上雇用する見込みがない者については、健康診断を省略することが認められています。

なお、これに該当しなくても、1週間の所定労働時間が正社員の2分の1以上の者については、実施することが望ましいとされています。

(2024/3作成)