リカレント教育

リカレント教育とは

リカレント(recurrent)には、回帰や循環という意味があります。リカレント教育は北欧で生まれた教育制度で、生涯にわたって就労と就学を交互に繰り返すことを言います。

会社を休職又は退職して、一定期間、仕事から完全に離れて、一般の学生と一緒に大学等の教育機関で新しい専門知識や技能を習得して、キャリアアップや転職に繋げようとするものです。

日本では、仕事から離れることは少なく、働きながら学ぶケースもリカレント教育と呼ばれています。大学や高校を卒業して就職した後に、学習の必要性を改めて実感して取り組むケースが増えていて、「学び直し」と言われることもあります。

リカレント教育と似た言葉で生涯学習がありますが、生涯学習は人生を豊かにすることを目的とするもので、趣味やボランティア等も学習の対象になります。リカレント教育は、仕事のスキルアップを目的とするもので、学習の対象が狭く、職業上の専門知識や技能等に限定されます。

リカレント教育が必要な理由

海外では1つの企業に長期間在籍するケースは少なく、転職と共にステップアップを目指すのが一般的です。それを実現するためには、自身の価値を高める必要がありますので、専門知識や技能等のレベルアップが求められます。政府の後押しもあって、海外ではリカレント教育が受け入れられやすい環境が整っています。

日本では会社が主導して、OJTや研修によって社員教育を行ってきました。しかし、現在は社会の変化が著しく、ITの進歩やAIの導入によって、これまであった仕事がなくなることも予想されています。

そうなると、OJTや研修では間に合いません。新しい仕事に順応するために、リカレント教育によって体系的に学び直す必要が生じます。仕事がなくならないとしても、職場で活躍し続けるためには、専門知識を絶えず更新していくことが求められます。

また、会社の寿命は30年と言われていますが、反対に定年年齢が引き上げられて、職業生活が長期化していきます。その会社でしか通用しない仕事のやり方や知識しか身に付けていないと、転職が困難になります。

政府としても、失業者等にリカレント教育を実施して、新しい産業の専門知識等を習得してもらうことによって、失業率の改善や新しい産業の成長に繋がります。

従業員のメリット

  1. リカレント教育で新しい専門知識等を習得して、会社に貢献できれば、年収アップが期待できます。反対に、昔の知識のまま環境の変化に対応できない従業員の価値は低下していきます。
  2. 転職がしやすくなります。会社にとってはデメリットかもしれませんが、向上心がある従業員には学べる環境が整っている会社が選ばれますので、同時に退職の抑制効果もあります。
  3. 出産や育児等のため長期間仕事から離れていた従業員が復帰する際に、環境の変化に戸惑うことがありますが、追い付くために新しい専門知識等を習得していれば円滑に復帰しやすくなります。

企業のメリット

  1. 従業員が新しい専門知識や技能等を習得することによって、会社も成長します。生産性が向上したり、業務の範囲が拡大したり、業績の向上が期待できます。
  2. 成長を実感できない職場では、不安を感じる従業員がいるかもしれません。新しい専門知識等を習得できる環境は、従業員のモチベーションの維持や退職の防止に繋がります。
  3. 従業員を募集するときに、リカレント教育を受けられることをアピールすれば、優秀な人材が応募してくる可能性が高まります。

リカレント教育が進まない理由

日本では長期雇用の考えが根強くて、仕事をしないことに対して抵抗があったり、学習している期間の収入の補償がありませんので、本来の意味のリカレント教育は普及していません。また、働きながら空いた時間に学ぶ場合も、次のような理由からリカレント教育は進んでいません。

  1. 残業が当たり前の職場では、十分な時間を確保することが難しいです。
  2. 夜間や週末にしか時間を確保できない場合は、受講できる講座やプログラムが限られます。
  3. リカレント教育を受けるための費用が掛かります。個人で負担するのは難しいです。

リカレント教育の促進

会社としてリカレント教育を促進しようとする場合は、次の2点を検討することになります。

  1. 受講するための休暇を認める
  2. 入学金や受講費用の一部を補助する

大企業の中には、専門知識等の習得に専念できるように最長2年間の休職を認めたり、入学金や受講費用の一部を負担している所もあります。

公的な支援制度の活用

厚生労働省、文部科学省、経済産業省で連携して、リカレント教育を広めるための支援制度が用意されています。積極的に活用すると良いでしょう。

教育訓練給付金

厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した場合に、受講費用の一部(20%から70%)が支給されます。基本的には従業員の判断で進める制度で、受講費用は本人が負担して、教育訓練給付金は本人に支給されます。申請や相談の窓口は、ハローワークです。

人材開発支援助成金

計画に沿って職業訓練を実施したり、教育訓練休暇を付与した場合に、訓練の経費や訓練期間中の賃金の一部が会社に支給されます。人材開発支援助成金には複数のコースがあり、リカレント教育を促進する場合は、教育訓練休暇制度を導入した場合に支給される「教育訓練休暇付与コース」が適しています。申請や相談の窓口は、都道府県労働局又はハローワークです。

マナパス

文部科学省が開設したサイトで、社会人に向けて、大学等の学び直し講座や学び直し支援制度の情報を発信しています。「分野」「資格」「通学/通信」「金額」など、自分の希望に沿った条件で、講座やプログラムを検索できます。

巣ごもりDXステップ講座情報ナビ

経済産業省が開設したサイトで、デジタルスキルを学べるオンライン講座が公開されています。自宅で簡単に、無料で受講できますので、新しいデジタルスキルを学び始めるきっかけに良いと思います。

受講できる教育機関

早稲田大学、明治大学、日本女子大学、筑波大学、大阪府立大学、愛媛大学、放送大学など、様々な大学で社会人を積極的に受け入れています。オンラインで受講できたり、夜間や週末に受講できるプログラムを用意している大学もあります。また、国家資格の取得や語学の習得を目指す場合は、資格学校や専門学校で受講する方法もあります。

(2024/1作成)