旧姓の使用

旧姓の使用

最近は夫婦別姓が問題になったりしていますが、結婚等に伴って戸籍上の姓(氏)が変わっても、次のような理由から、職場では旧姓(旧氏)を使い続けたいと希望する従業員が増えています。

従業員が旧姓の使用を求めた場合、企業は応じなければならないのでしょうか?

旧姓の使用を認めなかった職場で、従業員が旧姓の使用と損害賠償を求めて裁判になったケースがあります。

その裁判では、職場で従業員を識別したり、特定したりするために、戸籍上の姓の使用を求めることには合理性があると判示しました。企業側の主張が認められましたが、その後、旧姓の使用を認める内容で和解が成立しました。

今の所は、法律で決まっていることではありませんので、旧姓の使用を認めるかどうかは、それぞれの企業の自由と言えます。

しかし、結婚をして戸籍上の姓を変更するのは、圧倒的に女性が多数です。戸籍上の姓が変わることによって生じる負担を、一方的に女性に押し付けているのが現状です。

内閣府の調査(平成28年度「旧姓使用の状況に関する調査」)によると、旧姓の使用を認めている企業の割合は、約半数(49.2%)でした。女性の職場進出が進んでいますので、この割合が減少することはないでしょう。女性の活躍を期待するのであれば、本人の意思を尊重して、旧姓の使用を認めることが望ましいと思います。

旧姓の使用範囲の拡大

政府としても、女性の活躍を推進するために、旧姓を使用できる環境の整備に取り組んでいます。戸籍上の姓の使用を基本として、併記する形で旧姓の使用範囲が拡大しています。

マイナンバーカード(住民票)

マイナンバーカード(個人番号カード)については、2019年から旧姓を併記できるようになりました。マイナンバー(個人番号)と住民票は連動していますので、旧姓の併記を希望する場合は、市役所等で、住民票に旧姓を併記するための手続きをする必要があります。

運転免許証

運転免許証についても、希望する場合は、運転免許センター等で手続きをすれば、2019年から旧姓を併記できるようになりました。

パスポート(旅券)

パスポート(旅券)については、厳格な要件を満たした場合に限って、旧姓の併記が認められていましたが、2021年から要件が緩和されて、住民票やマイナンバーカードで旧姓を確認できれば、旧姓の併記が認められることになりました。

社会保険関係

健康保険、厚生年金保険、雇用保険については、戸籍上の姓を使用することになっています。そのため、今の所は、健康保険証に旧姓を記載(併記)することは認められていません。

ただし、市区町村が管掌する国民健康保険については、健康保険証に旧姓を併記できる所が出始めています。協会けんぽや健康保険組合でも、将来的には、健康保険証に旧姓の併記が認められるようになると思います。

※2022年9月から、旧姓の併記が認められるようになりました

税金関係

税金関係についても、戸籍上の姓を使用することになっています。

金融機関

金融庁から金融機関に対して、旧姓の名義で預金口座を使用できるように要請していて、現在は一部ですが、旧姓の名義で預金口座を使用できる金融機関があります。

旧姓使用のメリット

  1. 名刺やメールアドレス等を変更する必要がありませんので、コストの発生を抑えられます。
  2. 取引先や関係者に、姓が変わったことを連絡・説明する手間が掛かりません。
  3. 姓が変わることによって、取引先や関係者に結婚・離婚したことを知られますが、旧姓のままなら、知られることはありません。
  4. 姓が変わることによって、別人と認識される恐れがありますが、旧姓のままなら、そのような心配はいりません。

旧姓使用のデメリット

  1. 戸籍上の姓の使用を求められるケースがありますので、どの場合に旧姓を使用するか、どの場合に戸籍上の姓を使用するか、管理をする必要があります。
  2. 印鑑を2個用意する必要があるなど、使い分けが面倒です。
  3. 社会保険関係の手続きで、使い分けを間違えると修正を求められたり、口座振り込みで給付を受ける場合に、口座名義(姓)が違っていると正しく振り込まれません。
  4. 周りの従業員が、2つの姓を把握する必要があります。一方の姓しか把握していないと、郵便物が届かなかったり、電話が取り次がれなかったりする恐れがあります。

旧姓使用のルール作り

従業員の勝手な判断で旧姓を使用していると、使い分けを間違えて、問題が生じることが予想されます。問題の発生を防止するために、職場でのルールを設定することが重要です。

まずは、「戸籍上の姓を使用したい」と考える者、「旧姓を使用したい」と考える者の両方がいますので、それを把握するために、旧姓の使用を希望する場合は、書類等で届け出てもらうようにします。戸籍上の姓が変わる場合に、一方を選択して届け出てもらう方法も考えられます。

次に、どの場合に旧姓を使用するか、どの場合に戸籍上の姓を使用するかを整理して、取扱いを統一する必要があります。

  1. 企業内や取引先との間で処理・完了して、訂正が可能なものについては、基本的には、旧姓を使用できます。
    職場での呼称、名刺、名札、社員証、メールアドレス、社内文書、届出書類(休暇届等)、タイムカード(出勤簿)、労働者名簿、賃金台帳など
  2. 社会保険関係及び税金関係については、旧姓は使用できません。
    協会けんぽ(健康保険組合)、年金事務所(事務センター)、ハローワーク、税務署に提出する書類
  3. それ以外のものについては、それぞれの企業の考え方によります。証明書、従業員の身分に関する文書、訂正が困難な文書については、戸籍上の姓が望ましいと思います。
    身分証明書、在籍証明書、金融機関に提出する書類、給与明細、退職届、辞令、履歴書、健康診断に関する書類など

また、一方の姓だけを記載するのではなく、戸籍上の姓に旧姓を併記する方法もあります。

(2024/1作成)