副業・兼業促進の対応

モデル就業規則の変更

厚生労働省が副業・兼業を促進する方針に切り替えたため、公開しているモデル就業規則が改訂されました。

改訂前は原則的に副業や兼業を禁止する内容で、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と規定されていたのですが、改訂によってこの部分が削除されて、次の内容が追加されました。

第○条(副業・兼業)

  1. 従業員は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
  2. 従業員は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
  3. 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
    1. 労務提供上の支障がある場合
    2. 企業秘密が漏洩する場合
    3. 会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
    4. 競業により、会社の利益を害する場合

あくまでもモデル就業規則(見本の1つ)ですので、このように修正しなければならないということではありません。

副業・兼業の裁判例

副業や兼業に関しては、それを理由として会社が行った解雇が有効かどうかといった裁判が、これまで繰り返し行われてきて、その積み重ねによって、一定の判断基準が明らかになっています。

要約すると、従業員が勤務時間外(プライベート)の時間をどのように利用するかは個人の自由ですので、基本的には副業や兼業は行うことができます。

しかし、労務提供上の支障がある場合、企業秘密が漏洩する場合、会社の名誉や信用を損なう場合、信頼関係を破壊する場合、競業により会社の利益を害する場合は、会社は副業や兼業を禁止できると考えられています。

モデル就業規則でも、勤務時間外は副業や兼業ができる(第1項)けれども、会社の業務に支障がある場合は禁止や制限ができる(第3項)として、裁判例の判断基準と同じ構成になっています。

届出制と許可制

従来のモデル就業規則では、副業や兼業を行う場合は、事前に届け出て許可を得ることを義務付けていました。改訂後のモデル就業規則でも、会社の業務に支障がないか確認するために、事前の届出を義務付けています(第2項)。

モデル就業規則が、許可制から届出制に改訂されました。しかし、法律は改訂されていませんので、考慮する要素は従来と同じです。したがって、どこまで副業や兼業が認められるかという範囲は、許可制であっても届出制であっても変わりません。

業務に支障が生じない副業や兼業を認めることにすれば、就業規則は許可制のままでも問題はありません。

過重労働の防止

モデル就業規則でも列挙しているように、業務に支障が生じる恐れがある副業や兼業は禁止できます。

「1.労務提供上の支障がある場合」と規定されていますが、これは過重労働や不規則な時間帯の勤務、十分な休息を確保できないようなケースが考えられます。

例えば、当社で週40時間の勤務をしている場合に、兼業先で週20時間の勤務をすると、全く時間外勤務をしなかったとしても週60時間の勤務となり、過労死の認定基準を超える労働時間数になってしまいます。このような副業や兼業は、絶対に認めてはいけません。

正社員の兼業を許容できるケースは稀ですので、正社員用の就業規則については、兼業の部分は許可制のままが良いと思います。

また、副業や兼業を開始した後は、副業や兼業先での勤務時間を自己申告してもらう等して、常に勤務時間を把握して、過重労働にならないよう注意する必要があります。

割増賃金の計算方法

労働基準法では、1日8時間、1週40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないと規定されています。この規定は副業や兼業先での勤務時間も通算することとされていて、法定労働時間を超えたときは125%の割増賃金(時間外勤務手当)を支払わないといけません。

例えば、A社で「所定労働時間=1日5時間」で勤務していた従業員が、B社で「所定労働時間=1日4時間」で兼業を開始したとします。

この場合は、後から労働契約を締結したB社で兼業の有無を確認できるため、B社で1時間の時間外勤務をしているとみなされます。つまり、B社で1時間分の割増賃金(125%)の支払義務が生じます。

また、兼業を開始するまでは、A社で2時間の時間外勤務を行ったとしても、労働基準法上は100%の賃金の支払で構いませんでした。

しかし、兼業を開始した後に、A社で2時間の時間外勤務を行ったときは、A社で2時間分の割増賃金(125%)の支払義務が生じます。B社の所定労働時間と合計すると1日8時間を超えることを、A社において把握している必要があります。

労災保険の適用

労災保険は勤務時間に関係なく全ての従業員に適用されますので、業務災害や通勤災害が発生したときは給付を受けられます。

ただし、それぞれの会社で別々に適用されます。例えば、A社の賃金が月額15万円、B社の賃金が月額5万円だったとします。このときに、A社で業務災害に遭ったときは月額15万円(B社で業務災害に遭ったときは月額5万円)を基準にして、休業補償等の給付が行われます。

災害で重傷を負って、両社で勤務ができなくなったとしても、両社の合計額(月額20万円)を基準にして給付が行われることはありません。

(※現在、厚生労働省で、両社の賃金額を合算して給付するべきではないかという検討が行われています。)

また、A社での勤務を終えて、B社に向かう途中に交通事故に遭ったときは、通勤災害の対象になります。この場合は、B社の労災保険が適用されます(B社での賃金額が基準になります)。

雇用保険の適用

雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上の者に適用されます(加入義務があります)。

それぞれの会社で加入基準を満たしているかどうかを判定しますので、例えば、A社で週15時間勤務、B社で週10時間勤務だった場合は、雇用保険には加入できません。

反対に、同時に複数の会社で雇用保険の加入基準を満たしている場合は、賃金が最も多い会社でのみ加入することになります。

社会保険の適用

社会保険(厚生年金保険と健康保険)は、1週間の所定労働時間が30時間(大企業の場合は20時間)以上の者に適用されます(加入義務があります)。

社会保険もそれぞれの会社で加入基準を満たしているかどうかを判定しますので、例えば、A社(中小企業)で週25時間勤務、B社で週15時間勤務だった場合は、社会保険には加入できません。

同時に複数の会社で社会保険の加入基準を満たしている場合は、年金事務所に「二以上事業所勤務届」を届け出て、それぞれの会社で按分した社会保険料を納付することになります。

(2020/2作成)