治療と仕事の両立支援

治療と仕事の両立

昔は「不治の病」と呼ばれるような重い病気を患った従業員は、退職するケースが少なくありませんでした。

しかし、近年は治療方法が進歩していますので、「不治の病」は「長く付き合う病気」に変化して、退職しなくても済むケースが増えています。実際に、がんの治療で通院しながら働いている人が30万人以上いると推計されています。

今後も高齢化が進行しますので、病気を患う従業員が増加することが予想されます。そのときに、職場の理解や支援体制が不足したり、仕事を休めないで適切な治療を受けられなかったりすると、退職するケースが多くなります。

両立支援のガイドライン

労働安全衛生法によって、企業は健康診断を実施して、業務によって疾病を発症したり、疾病が増悪したりする恐れがある場合は、必要に応じて、就業場所を変更したり、作業を軽減したり、労働時間を短縮したり、深夜業の回数を減らしたり、就業上の措置を実施することが義務付けられています。

法律上の義務を履行した上で、最近は、健康経営、社会的責任、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ等が注目されていることから、治療と仕事の両立支援に取り組みたいと考える企業が増えています。

一方で、両立支援の取組状況は企業によって様々で、実際に実施しようとすると、悩む場面が多いです。

そのため、業務によって疾病が増悪しないよう就業上の措置を実施しながら、従業員が適切に治療を受けられるようにするために、関係者の役割、職場の環境整備、従業員の支援の進め方などについて、厚生労働省からガイドライン(「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」)が公表されています。

治療と仕事の両立支援に取り組むメリットは、人材を確保できることだけではありません。従業員の安心感やモチベーションが向上することによって生産性が向上したり、多様な人材を活用することによって組織が活性化したりすることも期待できます。

実施前の準備事項

会社が治療と仕事の両立支援に取り組む方針であることを、従業員が知らないと会社に相談する前に自主的に退職するかもしれません。衛生委員会等を開催して、次のような環境を整備することが望ましいです。

  1. 治療と仕事の両立支援を行うことを従業員に周知します。
  2. 従業員や管理者に対して、治療と仕事の両立に関する研修や教育を行います。
  3. 安心して相談や申出ができるように、相談窓口を設置します。
  4. 担当部署(担当者)、上司、同僚、産業医、主治医等の関係者の役割や対応手順を整理します。
  5. 主治医に情報を提供したり、主治医に意見を求めたり、必要な情報を共有するための様式を定めます。「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」には、次の様式例が用意されています。円滑に処理できて、確認事項の漏れを防止できますので、活用をお勧めします。
    • 勤務情報を主治医に提供する際の様式例
    • 治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例
    • 職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例
    • 両立支援プラン(職場復帰支援プラン)の作成例

両立支援の進め方

治療と仕事の両立支援は、次のような流れで進めます。

  1. 従業員が会社に両立支援を必要とすることを申し出ます。関連する様式について、日頃から社内の全体に周知しておくことが大事です。
  2. 就業継続の可否、就業上の措置、望ましい配慮等について、従業員の同意を得た上で主治医や産業医から意見を聴取します。
  3. 主治医や産業医等の意見を勘案して、会社が就業継続の可否を判断します。本人から了解が得られるように、十分な話合いを行うことが大事です。
  4. 就業を継続する場合は、就業上の措置、配慮の内容、実施時期等を検討します。その際は、必要に応じて、「両立支援プラン」を作成して、実施することが望ましいです。その後も治療の経過を確認して、状況に応じて、「両立支援プラン」を見直すこともあります。
  5. 休業(休職)する場合は、その前に、賃金の取扱い、社会保険の手続き、休業可能期間(休職期間)、復帰の手順等の説明をして、休業期間中の連絡方法等の確認を行います。
  6. 疾病が回復した場合は、主治医や産業医等の意見、本人の意向、復帰予定の部署の意見等を総合的に勘案して、会社が復帰の可否を判断します(配置転換も考えられます)。復帰する場合は、必要に応じて、「職場復帰支援プラン」を作成することが望ましいです。

両立支援に関する制度

従業員が適切に治療を受けられるようにするために、次のような休暇制度や勤務制度があります。それぞれの会社の実情に応じて検討して、導入を決定します。

  1. 時間単位の年次有給休暇
    年次有給休暇は1日単位で取得する方法が原則ですが、労使協定を締結すれば、1時間単位で取得することが可能になります。ただし、1時間単位で取得できるのは、1年につき5日分が上限として定められています。
  2. 傷病休暇(病気休暇)
    年次有給休暇とは別に、入院や通院のための休暇を認めるもので、無給か有給か、取得できる期間等については、会社によって異なります。
  3. 時差出勤制度
    始業時刻と終業時刻を変更する制度で、満員電車等の通勤による負担を軽減できます。
  4. 短時間勤務制度
    所定労働時間を短縮する制度で、療養中や療養後の負担を軽減できます。
  5. 在宅勤務(テレワーク)
    自宅で勤務をする制度で、通勤による負担を軽減したり、柔軟な働き方が可能になります。
  6. 試し出勤制度
    長期間休業していた従業員が復帰する前に、労働時間や出勤日数を短縮して、試しで出勤する制度です。本人や受け入れる職場の同僚等の不安を緩和できます。

個別の特性に応じた配慮

治療方法や症状は個人ごとに大きく異なります。短時間の治療が定期的に繰り返される場合、労働時間に一定の制限が必要な場合、通勤による負担を軽減する必要がある場合など、個人ごとの特性に応じた配慮が必要です。

また、重い病気を患った人が身近にいない限り、個々の病気については、知らない人が大半と思います。ガイドラインには、がん、脳卒中、肝疾患、難病、心疾患、糖尿病について、それぞれに関する留意事項がまとめられていますので、該当する従業員が現れたときは参考にすると良いでしょう。

(2023/12作成)