残業時間かどうか?

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残業時間(労働時間)かどうか?

普通に仕事をしている時間は、労働時間に該当します。そして、終業時刻を過ぎて仕事をすると残業時間になり、その時間に対して残業手当の支払い義務が生じます。

普通に仕事をしている時間は当然、労働時間(残業時間)に該当しますが、「この場合はどうだろうか?」と疑問に思われる時間があります。

過去の裁判例により、労働時間とは、会社の管理下に置かれている時間とされています。つまり、仕事をしている時間だけではありません。具体的に見てみましょう。

研修を受講した時間は残業時間になる?

従業員が業務に関連する研修を受講するケースがあります。この受講時間は、労働時間(所定労働時間外に受講した場合は残業時間)になるのでしょうか?

研修の受講を会社が強制していない場合は、受講時間は労働時間(残業時間)には該当しません。本人の意思で受講を決めたとすると、プライベートの時間と変わりませんので、会社は残業手当を支払う必要はありません。

受講を強制している場合は、業務命令と同じになりますので、受講時間は労働時間(残業時間)に該当します。残業手当の支払い義務があります。

また、受講を強制していないとしても、受講しないことで低く評価しだり、欠勤として取り扱ったり、従業員が不利益を受ける場合は実質的に強制していると判断されます。

新入社員等に対して行う研修で、その研修を受けなければ後の業務に支障が生じるような場合も同じです。このような研修時間は労働時間(残業時間)として、残業手当を支払わないといけません。

研修の受講が、強制(業務命令)か任意か、曖昧になっていると問題になりやすいです。

業務に役立つ研修であれば業務命令(強制)として労働時間にカウントする。もしくは、業務との関連性が弱くて任意とするのであれば、強制でないこと、受講は自由(任意)であることを説明して、明確に区別してください。

後片付け、朝礼の時間は残業時間になる?

従業員が後片付けや掃除をしても、会社が利益を得ることはありません。会社は「利益を得ていないんだから、その対価となる賃金は払えない」と考えるかもしれません。

しかし、労働時間に該当するかどうかは、会社が利益を得ているかどうかは関係ありません。会社の管理下に置かれているかどうか、で判断されます。

会社が指示や命令をして、従業員に片付けや掃除をさせているのであれば、その時間は労働時間(残業時間)となります。それ自体は業務とは言えないかもしれませんが、業務に付随する行為で、業務と切り離すことはできません。

朝礼の時間も同じです。始業時刻の10分前に朝礼をして、それまでに出勤することを義務付けている場合は、10分間の早出残業となります。

なお、作業着に着替える時間は判断が難しいです。労働安全衛生法で装着が義務付けられていたりして、会社が指定する場所で着替えることを義務付けている場合は、労働時間と判断されます。

家で作業着に着替えて出勤しても構わないという場合は、労働時間にはならないと考えられます。

従業員が家に持ち帰って仕事をした時間は残業時間になる?

従業員が仕事を家に持ち帰って、報告書を書いたりすることがあります。このような持ち帰り残業は、労働時間(残業時間)になるのでしょうか?

労働時間とは、会社の管理下に置かれた時間のことを言います。会社は従業員が家で何時間仕事をしたのか把握できませんし、寝転んでビールを飲みながらやってるかもしれません。

そのような時間は、会社の管理下にあるとは言えませんので、原則的には、残業時間には当たりません。

しかし、例外的に、家で仕事をせざるを得ない状況を会社が作った場合は、それに必要と考えられる時間分の残業手当を支払う義務があります。例えば、「この会議の議事録を明日の朝一に提出しなさい」と言って帰宅させるような場合です。

会社が強制しないで、会社で処理できない仕事を命じることもなく、従業員が勝手に持ち帰り残業をするような場合は、残業手当を支払う必要はありません。

しかし、従業員が持ち帰り残業をすることによって、企業機密が漏えいしたり、パソコンがウイルスに侵されたり、備品の持ち帰り等の問題が生じたりする恐れがありますので、持ち帰り残は望ましいことではありません。

自己申告の記録とタイムカード

残業時間の自己申告とタイムカードを併用している会社では、自己申告した残業時間とタイムカードの打刻時間に誤差が生じます。この誤差は、どのように考えられるのでしょうか?

大原則として、労働時間に対して賃金(残業時間に対して残業手当)を支払う義務があります。当然、労働時間でなければ支払う必要はありません。

そして、タイムカードは、従業員の労働時間を記録する機械ではなく、出退勤の時刻を記録する機械です。出勤と同時に勤務を開始しないで、始業時刻になるまで、同僚と世間話をしたり、新聞を読んだりすることがあります。

そのような時間は会社に管理下にありませんので、労働時間には当たりません。ある程度の誤差が生じることは避けられません。

会社によって状況は様々ですが、1日につき10分前後だったら勤務していない時間が生じることを証明できても、30分、1時間の誤差(ずれ)があると証明することは難しいです。

1日につき30分以上のずれがあって、従業員からタイムカードに基づいた時間で残業手当を支払うよう請求された場合は、自己申告の記録ではなく、タイムカードの時刻が労働時間とみなされるケースが多いです。

会社が、自己申告の記録に基づいて残業手当を支払っていた場合は、タイムカードの打刻時間に近い時間で計算した残業手当との差額を支払うことになります。

わざわざ請求してくる場合は、実際にも、その時間で残業していたケースが大半と思います。

自己申告した残業時間とタイムカードの打刻時間は、できるだけ誤差が生じない方が良いので、業務を開始する直前、終了した直後に打刻するよう指導してください。

従業員が納得してれば残業時間にはならない?

「残業手当が支払われないことは、従業員も納得の上だ」と主張する経営者もいます。この場合はどうなるのでしょうか。

労働基準法は強行法規と言って、強制的に適用されます。つまり、当事者の意思に関係なく、労働基準法に基づいた残業手当の支払義務があります。

これは、残業手当を定額で支払っている会社で、それ以上の残業手当は支払わないことについて、従業員が同意している場合も同じです。

同意書に署名していたとしても、そのような同意書、契約は無効です。労働基準法に基づいて残業手当を支払わないといけません。

従業員が勝手に残業した場合は?

会社が残業を命じていないにもかかわらず、従業員の判断で勝手に残業や休日出勤をした場合はどうなるのでしょうか。

会社が知らない所で行われていた場合は、会社に管理下にあるとは言えませんので、残業手当を支払う必要はないと考えられます。

しかし、会社が全く知らないということではなく、知っていたけど黙認していた場合は、残業手当の支払義務があります。

会社が従業員の勝手な残業を放置していると、黙示的に(ハッキリと言わないまでも間接的に)残業を指示していたと判断されます。

見て見ぬふりをして、残業手当を支払わないというのは許されません。不必要な残業や休日出勤を知ったときは、直ちに禁止して、帰らせる必要があります。そうすれば、残業手当を支払わされることはありません。

また、会社が、従業員が残業や休日出勤をしていることを知らなかったとしても、残業しなければ処理できない程度の仕事量を与えていた場合も、残業手当の支払義務があります。