休業手当【いずみ福祉会事件】

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いずみ福祉会事件 事件の概要

社会福祉法人が設置する保育所に、20年以上保母として保育業務に従事していた従業員が、清掃整備業務に配置転換されました。

保育所では、保育業務に従事する保母に特殊業務手当等を支給することになっていたのですが、この配置転換に伴って、特殊業務手当等の支給が打ち切られ、これまで支給されていた期末手当等が減額されました。

また、その翌年に用務員に配置転換されたのですが、勤務態度の不良等を理由にして解雇されました。

これに対して、従業員が、配置転換と解雇はいずれも無効であるとして、支払われるべきであった賃金等の支払いを求めて提訴しました。

いずみ福祉会事件 判決の概要

会社の都合で解雇された従業員が、他社に就職して収入(「中間利益」)を得たときは、会社は、従業員に解雇期間中の賃金を支払うに当たって中間利益の額を賃金額から控除できる。

しかし、賃金額のうち、労働基準法第12条第1項で定められている平均賃金の6割については、利益控除の対象とすることが禁止されている。

一方、会社が従業員に対して支払義務がある解雇期間中の賃金額のうち、平均賃金の6割を超える部分から、賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許される。

また、中間利益の額が平均賃金の4割を超える場合は、更に平均賃金の算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法第12条第4項で定められている賃金)の全額を対象として、中間利益の額を控除することが許される。

解説−休業手当

配置転換と解雇の無効を訴えた裁判ですが、配置転換と解雇については無効と判断されて、その解雇期間中に得た中間利益の取扱いが争点になりました。

まず、解雇が無効と判断されたときは、解雇された後も通常の勤務をしていたものとして、会社には賃金の支払い義務が生じます。

実際には勤務をしていませんので、会社としては納得できないかもしれませんが、解雇をする場合は、それだけ大きなリスクがあるということです。裁判になると、解雇が有効か無効か確定するまで、1年以上を要するケースも少なくありません。

そして、解雇をされて無収入になると、その人の生活に支障が生じますので、他社に就職するケースがあります。他社で得た収入のことを「中間利益」や「中間収入」と呼びます。

このときに、解雇が無効と判断されて、解雇期間中の賃金の支払いを命じられたときは、会社は民法の規定により、「中間利益」の額を控除することが認められています。

ただし、平均賃金の6割については、労働基準法上の休業手当の規定により控除することができません。解雇が無効と判断された場合は、解雇期間中は「使用者の責に帰すべき事由による休業」とみなされます。

この残りの平均賃金の4割分については労働基準法で特に規定がないことから、控除することができます。そして、中間利益の額が平均賃金の4割を超える場合は、更に、賞与などの平均賃金の算定基礎に含まれない部分についても控除できることが示されました。

例えば、解雇をして、2年後に解雇無効の判断が行われて、この2年間の賃金が400万円、その間の賞与が100万円だったとします。このときに、解雇されて全く収入がなかった場合は、会社は合計500万円を支払わないといけません。

一方、この2年の間に、他社で勤務をして200万円の収入があったとします。

この場合は、まず、平均賃金の算定の基礎となる賃金の6割(400万円×6割=240万円)は支払いが確定しています。

残りの160万円は、中間収入から控除できます。この例では、中間収入が200万円ですので、会社は、160万円(平均賃金の4割)は支払わなくても構いません。

そして、平均賃金の算定基礎に含まれない部分(この例では100万円の賞与)については、中間利益から更に控除できることとされています。中間利益を控除して40万円分が残っていますので、賞与に関しては、差額の60万円を支払うことになります。結果的に、300万円を支払うことになります。