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東朋学園事件 事件の概要

女性従業員が出産をして、8週間の産後休業を取得しました。

その後、引き続き、会社の育児休職規程に基づいて、約1年間、勤務時間を1日につき1時間15分短縮する措置を利用しました。

会社の就業規則(給与規程)では、賞与の支給要件として、賞与の支給対象期間中の出勤率が90%以上の者に支給するという規定「90%条項」が設けられていました。

そして、賞与の算定に際して、産後休業の期間と勤務時間を短縮した時間を欠勤扱いとして計算した結果、出勤率が90%未満となったため、賞与の支給要件を満たしていないとして、2回分の賞与が支給されませんでした。なお、従業員の年収に占める賞与の割合は、約3割でした。

これに対して、女性従業員が、会社の就業規則(給与規程)は労働基準法第65条及び育児介護休業法第23条(当時の第10条)の趣旨及び公序に反する主張として、2回分の賞与の支払いを求めて提訴しました。

東朋学園事件 判決の概要

労働基準法第65条は産前産後休業を定めているが、産前産後休業の期間中の賃金については何も規定がないことから、産前産後休業が有給であることまでを保障したものではない。

一方、労働基準法第39条第8項で、年次有給休暇の請求権の発生要件である8割出勤の算定に当たって産前産後休業の期間は出勤したものとみなす旨を、労働基準法第12条第3項第2号で、平均賃金の算定に当たって産前産後休業の期間とその期間中の賃金を控除する旨を規定している。

これらの規定は、産前産後休業の期間は本来欠勤であるけれども、年次有給休暇の付与に際しては出勤したものとみなすことにより有利に取り扱うこととして、また、平均賃金の算定に際しては産前産後休業の期間とその期間中の賃金を控除して不当に低額にならないよう考慮して定められたものである。しかし、これは、産前産後休業の期間を出勤したものとして取り扱うことを、会社に義務付けるものではない。

また、育児介護休業法第23条において、3歳に満たない子を養育する従業員で育児休業をしない者が申し出たときは勤務時間の短縮等の措置を講じなければならないことが規定されている。しかし、この勤務時間の短縮措置が講じられた場合に、短縮した勤務時間を出勤したものとして有給で取り扱うことを義務付けているものではない。

したがって、産前産後休業を取得し、又は、勤務時間の短縮措置を利用した従業員は、その期間は就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金を請求することはできない。不就労期間を出勤したものとして取り扱うかどうかは、労使間の合意にゆだねられる。

そして、本件90%条項は、賞与の算定に当たって、産前産後休業の期間及び勤務時間の短縮措置により短縮した時間に対応する賞与を減額するだけではなく、産前産後休業の期間等を欠勤扱いとして算定した出勤率が90%未満になると一切賞与を支給しないというものである。

従業員にとっては、年間収入に占める賞与の割合が相当大きく、本件90%条項を満たさないことにより、賞与が支給されない場合の経済的不利益は大きい。

本件90%条項の基準として90%という出勤率が定められているが、このような基準では、従業員が産前産後休業を取得し、又は、勤務時間の短縮措置を利用すると、それだけで基準を満たさなくなり、賞与の支給を受けられなくなる可能性が高い。

以上のことから、本件90%条項の制度は、勤務を継続しながら出産し、又は、育児のための勤務時間の短縮措置を請求することを差し控えようと思わせるもので、事実上の抑止力は相当強いものである。

そうすると、本件90%条項のうち、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数に産前産後休業の日数及び勤務時間を短縮した時間を含めないとしている部分は、労働基準法第65条及び育児介護休業法第23条により認められた権利の行使を抑制し、労働基準法等が保障した趣旨を実質的に失わせるものであるから、公序良俗に反し無効である。

しかし、本件90%条項が無効であるとしても、賞与の計算に当たっては、産前産後休業の日数及び勤務時間を短縮した時間分は、就業規則(給与規程)の定めるとおり欠勤として減額の対象になる。

これは、賞与の額を一定の範囲内でその欠勤日数に応じて減額することにとどまるものであり、加えて、産前産後休業を取得し、又は、育児のための勤務時間の短縮措置を利用した従業員は、法律上、不就労期間に対応する賃金の請求権がなく、就業規則においても不就労期間は無給とされている。

したがって、労働基準法等が保障した趣旨を実質的に失わせるものとまでは認められないから、これをもって直ちに公序に反し無効ということはできない。

解説−産後の休業

この裁判では、産前産後休業と賞与の取扱いについて、2つのことが示されました。

1つは、労働基準法等の法律で定められた産前産後休業等の取得を抑制するような制度は認められないということです。もう1つは、賞与を算定するときに、産前産後休業等の不就労期間に応じて、賞与の支給額を減額することは可能であるということです。

産前産後休業を取得したときに賞与を不支給にしたりして、産前産後休業の取得を抑制する制度が認められると、実際に産前産後休業を取得する従業員がいなくなって、法律で定めている意味がなくなってしまいます。

法律で認められた権利を行使することによって、従業員に大きな不利益を与える制度は、労働基準法等の法律の趣旨を実質的に失わせるものとして認められません。

ただし、賞与の支給額の算定に当たって、産前産後休業の日数分、勤務時間を短縮した時間分を欠勤扱いとして減額の対象とすることは可能です。

本来、労働基準法でも産前産後休業を取得した日については、有給とすることまでは求められていませんので、その部分を無給とすることは問題ありません。

例えば、賞与の支給対象期間が6ヶ月間で、産前産後休業の期間が4ヶ月間とすると、賞与の支給額を全期間出勤した場合の6分の2に減額することは可能ということです。休業した割合を超えて減額をすると、問題になります。